ガロファノの花弁
□恋結
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ルカは白い部屋にいた。
病室には変わり無いが、いつも以上に物々しい。電子音、点滴の滴る音。それは聞き慣れている。
――ジャラ・・・――
ルカの両手と目には、頑丈な拘束具が付けられていた。
・・・
「サヴァ、なんでこんなことになってんだっけか・・・?」
ルカの病室の監視モニターに頭痛を覚えているのか、エリオットは頭を押さえながら、パソコンを弄るサヴァを見遣った。
「現実逃避でとぼけるな。ルカに末期の陽性反応が出たんだ。クソッ、何故今まで検査に引っ掛からなかった・・・」
「でもよぉ・・ルカはまだルカだぜ?病室行って話し掛けたが、いつも通りだったし・・・イカレてるようには見えなかったが・・」
「分かってる」
サヴァは報告書を打っていた。ルカを庇う文章がツラツラと書かれており、上層と戦闘員に中立的な立場を保っていたサヴァは、今明らかに戦闘員・・ルカの味方をしていた。
「やっぱりサヴァも嫌だよな・・・ルカを殺さなきゃならなくなるのは・・」
「馬鹿か。俺達の部下が感染者だという時点で出世に響いた。むしろ俺はあの馬鹿を殺してやりたい」
「またまた〜今現在、庇ってるくせに」
「うるさいっ!」
サヴァをからかうエリオットも同じだ。隊長を降ろされても、ルカを庇うつもりでいる。
「まっ、ルカもそうだが、リンドーも俺は心配だぜ・・・」
「奴もルカへの対応次第では危ういな・・・」
竜胆は別の隔離室に収容されている。意識不明の状態で、彼の体にもルカと同一のD病原体が確認されていた。
ホセの報告は一部不明な点があったが、事は把握できた。
シチリアでD病原体のオリジナルを保有する感染者と二人が接触し、戦闘になった。その間に竜胆が致命傷を負い、心肺停止の状態になり、ルカと感染者が戦闘を続け、相打ちの形で感染者が撤退したのだと。
そして、信じがたい事実も報告された。
その感染者とルカは血縁関係があり、ルカもまたオリジナルのD病原体保有者だと。しかし相手とは違い、ルカは病原体に抗体を持っているらしい。そして、死亡していたと思われる竜胆にルカは己の血を与えたと。
「"なぁ、隊長達聞いてる?"」
モニター越しにルカの声が掛かる。サヴァはマイクをエリオットに渡した。エリオットは極力いつも通りの声をだす。
「どしたルカ?トイレか?」
「"いや、リンドー・・どうしてるかなって、よ・・・"」
「・・まだ目は覚めてないな。お前が言ってたみたいに骨折は見られねぇし、ぐっすり寝てるだけに見える」
「"そうすか、Thank you"」
安心したようにルカは笑った。拘束されてからまだ半日も経っていない。精神的にはまだ元気なようだった。痛覚を麻痺させる薬品を点滴で打たせているから、見るに耐えない重傷でも、怪我を忘れたようにルカは明るい。
「・・・・・・。」
マイクを切ったエリオットは、ふと真剣な目をする。
「ホント、俺達が護らねぇとな」
「・・・嗚呼」
サヴァはルカ達への擁護の思いを含めた報告書を上層部に送信した。
・・・・・・・・・・