ガロファノの花弁
□月下狩人
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上層部から新たに命令が下った。
先日発見されたD病原体のオリジナルを保有する男性を保護する事を機関の最優先事項に改めたのだ。感染の根源を絶つ事を目的にしているのだろう。最も身近な空気感染をさせる事が出来るのは数あるD感染生物でも彼だけだからだ。
「サロ=レオンカヴァッロ。年齢は22歳4ヶ月。身長は約180cm、イタリアでは7年程前から一家惨殺事件後の行方不明者として捜索対象になっている」
坦々と読み上げられてから机の上に叩き付けられた書類に、椅子にだらし無くもたれていたエリオットは肩を竦める。彼の目の前には艶やかな白髪を揺らすサヴァの姿があった。無論、相変わらず不機嫌そうにこちらを見下ろしているのだが。
「何で俺にこの書類なんだ?Honey」
「不服だが、俺とお前でコイツの保護を担当するらしい。全く、可畏が消息を絶ってから忙しいというのにこの始末だ」
数日前、可畏が単独任務の最中に行方を眩ませたのだ。捜索隊が出たものの、発信機の反応が消えた地点には大量の血痕が残されていた。調べれば可畏の血液と分かり、そして遺体が見つからないのはDに補食されてしまった場合が大半であるために事実上、可畏は消息不明ではなく、死亡として扱われた。
はずだったのだが。
「カイで思い出したんだけどよ、皆に言わなくていいのか?アイツも感染者だった事」
「・・・ただでさえ、ルカと竜胆の事で部隊が混乱しているんだ。奴の事を話したら、隊員達が互いを信用できなくなる」
可畏の物とおぼしき血痕の検査で、可畏もまたルカ達のように末期感染の反応が出たのだ。しかもルカや竜胆のように血中に抗体は見当たらず、オリジナルに近いウイルスが検出された。
「可畏は恐らく、その書類のルカの兄と通じていたんだろうな。遠征から帰還してから、よく有休を取ったり、非番の日に帰宅許可を得ようとしていたのは情報を渡す為だったんだろう」
「全然気づかなかったよな。彼女でも居んのかとは思ってたんだが・・・」
「お前はもう少し人を疑って掛かれ。仮にも隊長なんだからな」
「人を疑って掛かるのは性にあわねぇな。信じ合ってこその人間だろ?」
おどけて見せるエリオットにサヴァは溜め息をついてネクタイを締め直した。そのまま背を向けてトレンチコートをなびかせ歩く。
「エリオット、奴の保護については情報が入り次第動くそうだ。いつでも出撃できるようにはしておけ」
「お前とのセックスの最中とかだったらどうすんだ?」
「さっさと抜いて準備しろ。むしろするな。というか応じない」
「酷いなサヴァちゃん」
苦笑して、エリオットは煙草を吹かしてサヴァの背中を見送った。
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