ガロファノの花弁

□Sweet Sweet My Darling!!
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ルカとサロの繋がりは破綻しているが故に強固だった。
居場所こそ分からないが、互いの存在を常に感じる。彼方に居るような、ともすれば真後ろに居るような、不思議な感覚が常に在る。意識の中に互いが存在しているのだ。



だから、なのかもしれない。



暗い箱のような世界に腐臭が満ちている。
ルカはその巨大な箱の底にいた。

べちゃりとした感触に下を見てみれば、様々な生き物の死骸が腐乱していた。透明感のある赤い液体の底は、全て死骸。獣から人間に至るまで、あらゆる生き物が恨めしそうに水中からこちらを見上げている。

サロが見る世界――夢――だ。
直感的にそう思った。

暗い箱の壁には、無数の目玉や時計。理解できない狂気の世界に嫌悪を覚える。冷静なのは前にも一度、同じ夢を見たのだ。

ふと、液体に浮いたガラクタの中からある物を見つけ、手に取る。

昔撮った、唯一の家族写真だった。しかし両親の顔は焼かれていて、写真を恥ずかしがる自分と、自分を抱きしめてカメラのレンズに作り笑いを向けたサロだけが写真に残っていた。

「っ!?」

その時、背後から伸びた白い腕に体を搦め捕られた。白い腕を這い回る刺青を見て、ルカは激しい憎悪に駆られた。同時に、触れ合う肌に歓喜を抱く。

「また、逢いに来てくれた・・・」

サロの声だった。

「また」という言葉から、夢は連続しているようだ。やはり、自分とサロは同じ夢を同時に見て共有しているらしい。普段はそんな事は起こらないのだが。

咄嗟に身構えたが、それを杞憂と考えて止めた。前の夢ではサロはこちらに危害を加える事はほとんど無かった。少なくとも、殺すような攻撃はしてこない。夢の中では無駄だとわかっているのだろう。

水面が揺らぐ、屍達の目線が一気にサロへ向いたのだ。

腐りかけたぎらついた目に、ひたすらに憎悪をたぎらせて。

流石に身じろぐとサロの含み笑いが耳朶を犯した。

「気持ち悪い?いつもこんな夢を見てるんだよ。これ以外は思い出ばかりさ」

「・・・自業自得だな」

罪悪の赤い泉。しかしルカは何処か安心した。

夢がこんなカタチをしているのは、サロが罪悪感という物を持っている証明に他ならない。本当に命を奪う事に罪を感じないのならば、こんな夢は見ないはずだ。無論、その罪悪感は彼が自覚できない深層心理にある程度なのだろうが。

それでも、兄の心がまだ辛うじて人間だった事に安心したのだ。

サロの肌が滑らかに擦れる。

「そう、自業自得って奴だ。でも不思議とこの夢も嫌じゃないんだ。憎しみなんて汚い感情であれ、皆がオレを見てくれるから」

「・・・イカレてるな」

「お互い様」

サロの細い腕が白蛇のように体を這う。片方は喉を上がり、顎の所で動きが止まる。もう一方は下腹部の臍の辺りで静止した。指の腹に少しだけ力が篭り、触れていたこちらの肌を僅かに沈ませた。

「・・・なんだか、今は殺したいとか思わない。現実で傍に居ないからかな」

「知らねぇよ。オレはいつだってお前を殺してやりたいって思ってんだから」

「そんな形でも、いつもオレの事を考えていてくれるんだ・・?」

「なっ・・」

顎に添えられていた指が動き、ルカの口内に指を差し込まれる。咄嗟に歯を立てたが、夢の中とはいえサロの血を摂取したくない。力は加減した物になってしまった。侵入したサロの指が舌を弄びだす。ひんやりとした温度をやけにリアルに感じた。

「ねぇ、ルカ。オレ達はどうして、普通の人間として生まれなかったんだろう。オレ達がこんな宿命を背負わされる理由なんて無かったのに。普通の人間だったなら、もっとずっと、器用に穏便に、愛し合う事が出来たのにね・・・」

体に潜む獣は、傷付ける事でしか番いを愛せない。肉体を、心を、相手の全てをズタズタに切り刻んで凌辱しなければ気が済まない。
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