ガロファノの花弁
□infection
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怪我人を収容する病棟。
その一室にルカと竜胆は滞在していた。
「可畏兄さん、体の調子は大丈夫ですか・・?」
「大丈夫だよ。打撲とか切り傷とか、それくらいだったし。ただ出血が酷かっただけ」
可畏はベッドから上体を起こし、変わらぬ穏やかな笑顔を浮かべていた。竜胆は安心したように胸を撫で下ろし、微笑を向けた。
「カイ・・何か悪ぃ。オレ、アンタと一度合流してたっぽいのに別行動しちまって・・・」
「?、・・・謝らないでよルカ君。君が別行動した訳じゃない、元々僕は一人で行動してたんだから」
何故か一瞬だけ言葉に詰まった可畏を不思議そうに見たルカは、また軽い頭痛を覚え、よろめき竜胆にもたれ掛かった。
「ルカ君っ」
「おっと・・どうかしたの?」
「大丈夫、頭痛かっただけだ」
「駄目ですよルカ君、まだ記憶が混濁しているのですし、精神的にも全快じゃないんですから」
「君、記憶がどうかしたの?」
可畏は探るように目を細める。穏やかな声とは裏腹に紅茶色の目は険しかった。ルカは困惑した顔をしたがすぐに答える。
「いや・・その時の記憶、はっきり覚えてねぇんだ。カイと行動してたのは微妙に覚えてんだけど・・・なんつーか、何してたのかまでは思いだせねぇって感じで・・・」
「そっか・・大丈夫、無理して思い出さなくてもいいんだよ。大丈夫大丈夫」
可畏は腕を伸ばしてルカの頭を撫でる。栗色の髪は指で弄ばれ、そっと離れた。
「さんきゅ・・カイ」
「だから、忘れるんだ」
可畏はスッと瞳を細める。刹那、竜胆には見えない角度で瞳が玉虫色に染まる。その一瞬にルカは我が目を疑い、そして脳に静電気のような微かな衝撃を覚えた。咄嗟に頭に片手を添える。
「っ・・・?」
「ルカ君?」
竜胆がルカの顔を覗き込む。ルカは何故か混乱したような顔をしていた。しかし悩んだような仕種の後、諦めて顔を上げた。