あびす部屋

□夢は夢でしかなくて
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僕の夢は
君の隣を歩くこと。


僕が君の手を握ると
君は少し驚いた後、
優しく微笑みながら
ぎゅっと握り返してくれる。


すべて空想。
夢物語だ。





オリジナルイオンが羨ましい。


イオンも
羨ましくて妬ましい。


僕は出来損ないの
レプリカだから
2人みたいにはいかない。


でも、それでも
近くにいたい...と
願う僕は、愚かなのかな。



*****



夢を見た。


僕がレプリカとして、
出来損ないとして、
生まれて捨てられた頃の夢。


こうやって言うと
暗く聞こえるけど
ちゃんと光もあったんだ。


施設に捨てられて
生きていく理由も
ないままに
ただ時間だけが動いてた。


そんなとき
僕に生きる意味をくれる人がいたんだ。


――――


綺麗なピンクの髪の
小さな可愛い女の子。


その女の子は
僕と同じ顔の男の子。
つまり、オリジナルイオン
と歩いてて優しく笑ってる。



その笑顔が
忘れられなくて
僕は何度も何度も
あの子がいた場所に行った。


そんなある日
彼女は毎日一緒にいた
イオンとじゃなくて
別の「イオン」と歩いてた。


女の子は笑っていて
笑っていなかった。


導師イオンのレプリカは
簡単に造りだせる。


でも記憶までは
レプリカ出来ない。



女の子の側にいる
イオンには
女の子と過ごした
日々の記憶がないんだ。



僕なら。


ずっと見てた僕なら
あいつより覚えているのに。
同じ顔だってしてるのに。


そうだよ、僕なら。


また彼女を笑わせる事だって出来るかもしれない。





........だけど


それじゃ駄目だ。
僕は、
あいつと同じ顔だけど
あいつじゃないから。

あの子を笑顔になんて
出来ないだろう。


それに。
僕が嫌なんだ。
あいつの代わりじゃ
嫌なんだ。


しばらくして
あの子は来なくなった。


新しいイオンの隣には
別の、フォンマスターガーディアンが
歩いていた。


あの子とは別の
暖かい笑顔が
僕には恨めしく思えて


希望の光を
消された気がした。



ある日のこと。
その日は
記録的豪雨になった。


行くあてがない僕は
雨風を防げる場所を求めて
歩いていた。


すると
細い路地裏に
あの子をみつけた。


顔を見せないように
そっと近付いてみた。


女の子に
いつもの笑顔はなかった。


女の子は
寂しそうに遠くを見つめて
誰に話す訳でもなく
話し始めた。


「あのイオン様は、
アリエッタのイオン様じゃない、の。
アニスのイオン様なの。
分かってるの。

でも....
分かりたくない。

だって.....
アリエッタのイオン様は
光になっていったよ?


じゃあ、
アレは....ダレ?」




「....濡れるよ。」



話し掛けるつもりは
なかったのに。
話してしまった。

けど見ていられなかった。


振り向いた彼女に
顔を見られまいと俯いて
傘の代わりになりそうな
ビニールを差し出した。


「あなたは誰?」


「......」


「...濡れる、ね。」


「......うん」



「...ね、ドッペルゲンガー
って、信じる?」


「君は、
それがいたらいいなって
思うの?」


「わたし、は....」





―――――





「――――シンク」


「...ん?」


「起きて下さい。」


「あ、れ。僕、寝てた?」


「はい。」


「そっか....アリエッタ。
懐かしい夢を見たよ。」


「夢?」


君は覚えてないだろう。
あの日の事。


あの日、君が
ドッペルゲンガーにいて欲しいと望むなら、
僕が代わりになろう
とか思ってたんだ。
君が望んだら
少しは自分の存在価値が
見出だせる気がしたから。


でも、君は






――――





「わたし、は...

そうは思わない、です。
代わりがいないから、
その人を尊く思う、です。
代わりがいないから
いなくなったら悲しい。」


「....そうだね。」


でも...

じゃあ僕は何のために
生きればいい?
何のための存在?


「それは、
あなたが見つけるの。」


口には
出していないつもりが
出ていたみたいで、
女の子は答えてくれた。



「何のためか分からないなら
考えるために生きればいい。
意味の無い存在なんてない、よ。
いつかきっと
あなたの大切な人の為に...」






――――





「ね、アリエッタ、
見つかったんだ。
僕の生きる意味が。目的が。」


「?」


君をずっと守ってみせる。


そして、いつか。
いつか夢が夢じゃなくなったら。
君の隣を
描いていた夢通りに歩けたら。


「シンク。」


手に温もりを感じた。


「散歩、行こう?」


いつの間にか
彼女は僕の手をとって
走り出していた。


「―――っ!!!///」


「アリエッタ、ストップ!!
.......歩こうよ。」


「はいっ」


一瞬で夢が
叶ってしまった。


「アリエッタのせいだよ。」


「へ?」


「せっかく見付けたのに、
もう無くなったよ。」


君は少しあたふたしてから

「ごめん、ね?
アリエッタも一緒に探す、よ。」

なんていう。


もう十分だ。


さっきまで、
幻想だと思っていた事が
今では現実で。




こんな幸せ、
僕からは離れてあげないからね。


君が
また僕の隣を
歩いてくれますように。

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