頂き物・捧げ物等
□拍手文
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(高誕)
ゆらり、と。
雲から顔を出す月。
水面に写った満月に、酷く恋焦がれた。
待ちに待った今日この日。崇拝に近い程に憧れ、尊敬した我が道標。この世界を憎み、忌み嫌う彼。"高杉晋助"の生まれ堕ちた日。
「俺と一緒に世の中をひっくり返さねぇか」
初めて逢ったあの日。
あの危うさを感じる瞳に、雰囲気に。電流が身体を走り熱を帯びた。
(なんて、人)
そう、見た瞬間に。既に私の心は捕らえられていたのだ。
あの恐怖を覚える程に強い意志を持った瞳に、強烈に惹かれた。
どんなに恋焦がれようと。
どんなに敬愛しようと。
決して振り向きはしないあの人に着いて行こうと決めたのは私。彼が前だけ見ていられるようにするのが私の仕事だろう。
そう、例えるならば。それは水面に写る月。
それを欲し、いくら水面に触れようと決して届きはしないのだ。
「晋助様」
緩やかな波をうってはゆっくりと漆黒へ吸い込まれる紫煙。月明かりに照らされた姿は妖艶で、神秘的で。すぐ側に居るというのにひどく遠くに感じられた。
何者も寄せ付けず、恐怖を感じるくらい貪欲な野心。まるで触れてはならない聖域のような。
「皮肉なモンだ」
唐突に発せられた声。クク、と特有の笑い方。何が皮肉なのか、なんて。悟ったが何も言えない。黙り込んでいると、獣はまた喉を鳴らして笑う。
「世の中が 世界が憎くて壊したいと思ってる俺が、生まれ堕ちた日なんてな」
憎い憎いと思う世界に皮肉にも生まれた。此処に存在するという事実。それでもかつては今ほど忌み嫌ってはいなかった。
(この世界に在ったからこそあの人に出逢えたのだから)
だからこそ裏切り簡単に切り捨て、自分達を置いて微動だにせず廻る世界。平和ボケしている世界が。
世の中が 幕府が 憎い
「でも私は、晋助様に出逢えてよかったっス」
その言葉は届いたのか、届いてはいないのか。
獣は答えなかった。振り向きもせずに月だけ見上げ紫煙をふかす男は。
「良い満月だなァ」
そう一言呟いて、ゆっくりと瞼を閉じた。
それは狂気にも似て