Short Story

□夜空と君のラプソディー
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いつも難しくて刺々しい顔をしている君だから



ボクは少しだけ、君を困らせて表情を乱してみたいんだ。















夜空と君のラブソディー













『蜂、今居てる?』




寝室の扉にそっと声を掛ける。すると、少しだけ驚いた声が市丸の耳に届いた。




『市丸…か?』


『ほかに誰がおるん?』



市丸はクスクス喉を鳴らし笑いながら、散歩せえへん?と声を掛けた。
中から響くのは戸惑った君の声。




『こんな夜更けにか?』


『ボクと散歩…嫌なん?』




ボクはわざと蜂を困らせるような言葉を紡ぐ。





暫くして、おずおずと寝室の扉が開いた。
少しだけ開いた扉の間から覗かせた今の君の表情は、少し頬が色づいていて。




いつもの冷静な顔とは違い、今はただの意地っ張りな女の子の表情。




当たり前の事だけど、蜂を女の子の顔に出来るのは、きっとボクしか居ない。



他には居てほしくない。



これは、ボクだけの特権。




『可愛。ボク、蜂ちゃんのコト大好きになってまうなァ…どないしよ』





君の手を引きながらボクは言う。それを聞いて、君は『フン』とそっぽを向く。




でも、ボクは知ってる。それは君の照れ隠し。



ほら、やっぱりそうだ。耳まで林檎みたいに赤く染まって。





『ホンマに可愛。ボク、狼サンに変身しそうやで?襲いたくなってまう』


『貴様…変な気を起こしてみろ…私の雀蜂が唸るぞ』






砕蜂のそんな言葉を聞いて、市丸はガクッと肩を落とす。
砕蜂はそんなことを気にもせず、夜空を見上げた。





『空気が澄んでいるから…星がよく見えるな。』


『んん?…あァ……そうやねぇ…』





返事がつれないのは、ボクは星があまり好きじゃないから。
自分がひどくちっぽけに見えてしまう。





市丸は草村に佇む木を見つけて先に座り、砕蜂に向かっておいでおいで、と手を上下させた。





砕蜂は渋々そこに近づいた……途端、市丸に手を引っ張られて市丸の胸板に倒れるような形で寄り掛かってしまった。





『なッ…何をする…『ちっちゃ…ボクの腕の中にすっぽりや』





砕蜂は怒るつもりで声を出したが、市丸に優しく髪を撫でられ、怒る気力を失ってしまった。





『寒いやろ?せやから、ボクの腕の中に居たほうが暖かいと思たんや』



『……寒くなどない…』


『そうか…?』



『だが、貴様は寒そうだからな…仕方がない、此処に居てやる』





市丸はその言葉に一瞬驚いたが、すぐに笑顔に戻り『そりゃあ、おおきに』と吹き出した。





『な、何が可笑しい!!』




腕の中の砕蜂は顔を真っ赤にさせて怒り出した。




『まぁまぁ。ボク、嬉しくて笑ろてんねや』



『訳の解らん嘘をつくなっ!!』




意地っ張りなお姫様やな…ホンマに可愛いわ。
素直じゃないところが可愛。





『蜂、好きやで』


『……っ…』






真面目な顔で低く耳元で囁けば、君の顔はもう見なくてもわかる。真っ赤のレベルを遥かに超えるだろう。




真っ赤な顔を見せたくないのか、ボクの胸板から顔を離そうとしない君。



ボクは隙をついて、隠れていなかった額に口づけを一つ。




顔をあげれば君は照れながら怒る、という器用な表情を浮かべているだろう。




騒ぐ砕蜂を上手くなだめて、見上げる夜空。
きっといつもより優しく見えるハズ。










嫌いなハズの夜空の星。













君と一緒に見るなら悪くない。















〜Fin〜


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