Short Story

□陽射しの中の小さな恋
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『あ』



『……んだヨ』



『なんでィ…チャイナか』


『こっちのセリフアル』




いつもの駄菓子屋。

今日は銀時に珍しく多く貰ったお小遣を握りしめ、ご機嫌な気分で酢昆布を買い占める予定だった。




それ気持ちが、駄菓子屋に駆け込んだ途端、一気に吹き飛んだ。




見覚えのある栗色で銀時とは違うサラサラの髪。嫌なほどすぐに目に入る。




『私の気分を台なしにするんじゃないネ!!凄くむしゃくしゃするアル』




こっちが入口に足を入れたまま黙っていると、すぐにこいつは気がつき私に振り返った。





『こっちのセリフでィ』


『なんでこんな所に居るアルか…家出少年Aか?』




―――酢昆布早く買って帰ろ。




そんな事を考えながら酢昆布をわしづかみにし、おばちゃんに渡す。




『俺がどこに居ようと俺の勝手だろィ』




少年は少し目を細め、何事もないように言葉を返す。




((……いつにも増してつれないヤツ))




お互い同時にそんな事を思った。




『可愛くないヤツアル』


『そりゃどーも』




お互い暫く黙って睨み合い。




神楽はフン、とそっぽを向く酢昆布を受け取り足速に暑さの中へ戻って行った。












カゲロウの中で、小さな影は揺れた











『む"ぁ"ァ"ァ"ァ"〜!!暑いアル……』





ジリジリと肌を焼く熱が空から降り注ぎ、神楽はうなだれ、足をふらつかせる。


雫が自然に額から流れ落ちた。




『私とした事が…ぶざまアルな…』




駄菓子屋に傘を忘れるなんて、よっぽどあの場に居たくなかったんだな…と思う。




今更あんなサドが居るかもしれないところに戻るのも嫌だ。
こうなると意地っ張りなプライドが許さない。





でも。と、神楽は考えを否定する。




そんな細かい事を言っている場合じゃないかもしれない。





これ以上こんな陽射しの中にいたら、かなり危険だ。



自分の経験が、そう警告していた。





夜兎族の特徴。


陽の光に弱いコト。透き通るような白い肌がなによりそれを物語っている。






――ダメだ。今から戻る事も危険かもしれない。


傘を持たずに強い陽射しの中を長い間歩く事は、夜兎にとっては命に関わる。




(どこか…日影で休んで…)





そう頭で考えるものの、既に頭がぼーっとしていて、身体も言うことを聞いてくれない。






(このままじゃ…きっと死んじゃうネ…)





――パピー、銀ちゃん、新八、…定春…お願いアル。




もしそうなっても………





悲しまないでほしいヨ。




そして静かに、空から降り注ぐ陽射しは神楽の意識をさらっていった。





意識が遠退く直前、誰かの自分を呼ぶような声が聞こえた気がした。




* * * * *






それからどのくらいたっただろう。感じていた焼けるような熱は消え去り、代わりに涼しさを感じる。




『……?…』




ふと気が付くと、神楽は木の幹の影の下で寝かされていた。
僅かに頬に当たる風が心地良い。




『きっと…此処は天国ネ』




――とうとうやってしまった。みんな悲しむだろうな…そんな事を考えていたらチクンと胸が痛んだ。




神楽は目を閉じる。



涙が、一粒零れ落ちた。




まだ死にたくなかった。



傘を忘れて死ぬなんて、あまりにもマヌケ過ぎる。




酢昆布をもっとたくさん食べておけばよかった。






『バカだろ、お前』




頭の上から聞き覚えのある声が突然響いた。





まだ虚ろな瞳で声のしたほうを見上げると、まだ幼さの残る少年がいつもの涼しげな表情で見下ろしている。




泣き顔を見られたくなくて、さりげなく腕で顔を隠す。そして不機嫌そうにこう呟いた。





『バカとは何ヨ。バカはお前アル』





沖田からは、返答の代わりに溜め息が一つ。




『嫌な顔の天使様アルな。それともお前も此処に来たのか?お前は地獄行きだと私は睨んでたネ』


『俺がそう簡単にくたばる訳ねェだろィ。寝ぼけてねェでとっとと起きろ』





言われて起きるのは御免こうむる。そのまま黙っていると、栗色の少年は隣に腰を降ろしてきた。




『俺一人じゃ食い切れねェや。チャイナ、お前も手伝え』




『…??』




沖田の手元を見ると、袋には大量のアイスクリームが。




『ゴリゴリ君じゃねーか!こんなにたくさん買い込むなんて欲張りなヤツアルな』






そう言いながら跳び上がるように起き上がると、さっきまでの怠さが嘘のように身体が軽かった。




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