Short Story

□君の背中を追いかける
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何度でも、何度でも。






『チャーイナ、』




ヒュ。




風を切る音がして、見上げてみれば顔面に痛みが走る。




ゴロゴロ…という重厚感のある効果音をたてて、足元にジュースの缶が転がった。



あーあ、クリーンヒット。普通に痛そうだ。




何となく缶が転がる様子をただ眺めていると、目の前の奴は事もなげに瓶底眼鏡が押し上げる。




ちょっとヒビが入ってるし、かけ直してもそれは少し斜めっている。…が、そんなことは俺も特に気にはしない。





『…普通中身の入った缶を乙女の顔に投げるアルか』



『あらら、直撃したのか。俺はてっきり避けるかと思ってたぜィ』



『ふん、』




彼女はまた眼鏡を押し上げて缶を拾うと、それっきり黙ってしまう。




『それ、俺の奢りな』





それだけ言って、ドスッと座った場所はちゃっかり隣をキープ。
だが、彼女は特に拒否することも、気にすることもない。




今日は、空が嫌に青く澄んで見えた。





いつもならば、彼女がこんなに大人しいハズはない。





罵声が飛んできてもおかしくはないし、きっと普段なら今頃乱闘騒ぎに発展しているだろう。




『…飲まねーの?』




いつまで経っても黙っている神楽に痺れを切らしたのか、沖田は静かにそう呟いた。




『……』



…無反応。



テメェ、無視するとはいい度胸じゃねェか。俺がガラスの剣だって解ってんのか。



『……』



――ちょっぴり傷ついた。




拗ねた子供のように口を尖らせながら舌打ち。
そして半ば放置状態だった手の中の缶を開けた。



* * * * * *





『…失恋、したネ』




それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。世界中が音を失ったような静寂の中。



まるで自分達だけが世界から置き去りにされたような錯覚を起こしてしまう。



そんな静寂を破ったのはやはり彼女で。
その声はひどくハッキリと耳へと届いた。



その瞬間、思い出したかのように世界は再び音を取り戻す。




『私、本気だったヨ』




その言葉を聞きながら横目で姿を覗くと、その肩は微かに震えているように映る。




(――ああ、こういう時何て言えば良いんだっけ)




冷たい飲み物を買ったハズなのに、




缶を握り締めている自分の手は嫌に汗ばんで、気持ちが悪かった。






『…俺も、か』



『…?』




失恋した。たった今。




『テメェを振るなんて、そいつは見る目がねェ』



「よく聞こえなかった」という問いには答えずに、神楽の顔を見上げる。




沖田のその行動に驚いたのか、桃色は蒼い目を大きく見開いた。





瓶底でよく見えないが、その奥の蒼はきっと悲しみの色で歪んでいる。





俺なら、こんな顔させない。




こんな顔にさせた奴は腹立たしく思うものの、泣く程想われているのが凄く羨ましかった。





とはいえ、やはりそう思ってしまうことも黒い感情がふつふつと湧いてくる原因だ。





『チャイナ、そういう奴はな』




沖田の顔を不思議そうに見つめる彼女に頬を緩めつつ、続ける。




『幸せになって、見返してやるのが一番なんでさァ』



『……サ、』



『だから、』





"俺にしとけよ"








何度でも、何度でも







君の背中を追いかける


(アンタがちゃんと諦め切れるまで、待っててやるから)




俺が幸せにしてやらァ。






Fin

 

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