Short Story
□ナイトメアにさようなら!
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『近藤さん、』
『どうした?総悟』
怖い夢を見た。
近藤さんが、姉上が。俺の大切な人が。みんなみんな居なくなってしまう夢(そこには土方も不本意ながら該当していたが、ムカつくからそれは言わない)
目覚めたら側には誰も居なくて不安になって、家の中を走り回ってやっと見つけた大きな背中。
それが今にも消えてしまうんじゃないかと
怖くなって、思わず近藤さんの背中に抱き付いた。
『…近藤さ、…っ、』
『総悟、総悟。もう大丈夫』
『怖かった、』
『ごめんな総悟。怖い思いさせて…』
何度も 何度も
泣きじゃくる少年に"総悟"と呼び掛けた。
安心させるように
不安を拭い去るように
諭すように
大きな優しい手で頭を撫でて、ポンポンと一定のリズムを奏でながら赤子をあやすように背中を叩いてくれる。
ああ、この人は魔法使いじゃないだろうか。不思議な事に、そうされていくうち段々と不安が薄れてくる。
近藤さんの腕の中は、とても心地良い。
『…あ、れ…?総悟…?』
いつの間にか、腕の中で小さな男の子は眠りについていた。先程までが嘘のように、安心しきった表情で。
『…ったく…しょうがない奴だな』
そう言いながらも表情は穏やかで。そのまま彼を抱き抱えて風通りの良い縁側近くの和室に寝かせ、その側に寝転がる。
『…もう大丈夫だからな』
柔らかな風にフワフワとなびく栗色の髪をそっと梳きながら、安心しきったあどけない寝顔に目を細めた。
『ただいま帰りました…あら?』
『…近藤さん何やってんだ?』
昼寝しかけた頭の片隅に、買い物に出ていた声2つ。いかんいかんと夢の世界に旅立ちそうだった意識を留め、2人を笑顔で迎えた。
『おかえり!…いやな、どうやら昼寝してたら怖い夢を見たらしくて…また悪い夢を見ねェように今度起きた時は側に居てやろうと思ってな…!』
二人はその言葉に一瞬目を見開いて、だがすぐに優しい表情を浮かべる。ミツバはふわりと微笑んで、少年の顔を覗き込んだ。
『そうだったんですか…。幸せそうな寝顔…』
『…まだまだガキだな、』
あら、十四郎さんだってと言うミツバの声に近藤はハハハと笑い、本人はなんでだよとバツが悪そうに頬を赤らめて視線を反らす。
『ふふ、じゃあ私も一緒に寝ようかしら』
『おお!ミツバ殿もか!よし、ならトシも一緒に昼寝しようぜ!』
彼女が楽しそうに弟を挟んで反対側に寝転がると、近藤も微笑んで近くの畳をボスボス叩く。どうやらそこに寝転べと促しているようだ。
『っな、なんで俺まで…!』
『まぁまぁ、良いじゃねェか!ね、ミツバ殿もそう思うよな』
『ええ、きっとそーちゃんも喜ぶわ』
『……、わかった…』
半ば諦めた表情で近くに座り込んだ土方に、二人は顔を見合わせて楽しそうに微笑んだ。
縁側の近く。和室の畳の上でみんなで昼寝。
次に起きた時にはきっと、悪夢とはおさらばしているハズ。
ナイトメアにさようなら!
(幸せってきっとこんな事なんだ)
〜Fin〜