Short Story
□恋泥棒
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『銀さぁぁぁぁん!!』
今日も天井裏から変態の声が響く。欝陶しそうに頭を掻いて、木刀を投げておいた。
『痛いじゃない!でも本当は楽しんでるんでしょ!?解ってるんだから!』
木刀が頭に刺さってギャンギャン騒ぐ彼女を置いて、寝室の襖を閉める。
『ったく…』
『よく飽きないアルな』
『さっちゃんさんもそうですけど…銀さんも大変スね』
『そーヨ。ストーカーと化してるネ』
『オイオイ、どっかのゴリラとキャラがモロ被りしてんじゃねーか』
そんな会話が下で行われているのもつゆ知らず、今日も彼女はネバーギブアップの精神で頑張る。…得意な武器(?)が納豆なだけに。
(でも今日はいつもと違うのよ。1週間も仕事で貴方に会えなかったんだもの)
いつもは平気なハズの木刀も、今日はなんだか痛い。嬉しさに変わるどころか痛いだけ。
視界が涙で歪み始めたけど気にしない。私が泣いてる事を知って困ればいいんだわ。
だって寂しいじゃない。いくら私がMだからって傷つかない訳もなくて。やっぱり好きな人に会えないのはこの上なく辛いのよ。
『でもアイツはストーカーに見えてストーカーじゃねェケドな』
『?…じゃあ何アルか?』
『アイツは泥棒』
『泥棒?さっちゃんさんは忍者じゃないですか』
『い〜やアイツは泥棒だよしかも凄腕のな。俺も被害者だから。…てな訳で奴は俺に任せてお前らは散歩にでも行ってこい』
何てったってアイツは、あれほど頑丈にガードしてた俺の気持ちをいとも簡単に盗んでいったから。
玄関の扉が閉まる音がしたら、ため息を1つついて頭を掻く。ったく本当に騒がしいヤツだよ。
『バーカ、もう届いてるっつーの』
いつも通りかと思えば急に泣き出す。結局俺はお前に振り回されてばっかりなのな。
(仕方ねぇ、な)
だから早くその襖を開けてこい。もうそろそろ俺も素直に言ってやるから。
恋泥棒
(でもそんな風に振り回されんのも嫌いじゃないんだよな)
Fin
銀←さちかと思いきや
銀(→)←さち!