Short Story3

□今夜私はこの世から消える
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夜空にぷかりと朧月。
柔らかな光を地へと流す。

その神秘な光に照らされて嗚呼、浮かび上がるは二つの人影。

暗闇の中にゆらりゆらりと
まるで揺りかごのよう。

探るように触れた指先に
蜜蜂は微笑みを零した。



「おかしな顔をしているな」

「…バレてもた?」

「何時ものことだ」

「ひどいなァ、」



喉を鳴らしてクスリクスリ。
髪を撫で上げる手に感じた焦れったさ。

嗚呼この男はいつもそうなのだ。
故に離れられなくなる。
その手の温かさを知ってしまったが最後、蜘蛛の巣に掛かった蝶のように。



「市丸」

「ん…?」

「満月が顔を見せた」

「…ホンマやね」



それを合図に交わる手と手。
抱き寄せると仄かに汗の匂い。

蜜蜂はもう考えることを止めた。
それよりも、今はこの香りに酔っていたかったから。



「…市丸」

「なに?」



弧を描いたそれと重なった時。
蜜蜂はただそれだけで頭を埋め尽くす。



(何も考えられなくなるぐらいに住み着け)
(そして決して離れるな)














の世から消える






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配布元:残虐デモクラシー様

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