Short story2
□結局はそれに意味などなくて
1ページ/1ページ
気付かないフリをする。
本当はこの気持ちの名前を知らない程に無知な子供ではなく、かといって忘れる事が出来る程に大人ではない。
だから
狡い俺は、気付かないフリをする。
「今日はとてもいい気分なの」
チクリ。胸が痛んだ。
目の前で本当に機嫌がよさ気に微笑んだ彼女にめまいがする。そのまま笑顔を見ていられなくなって目線を窓に移す。今日は痛いぐらい青い青い空模様で。雲一つない快晴で気持ちが良いぐらいなのに。
こんな日にこんな気持ちになる俺は、きっとどうかしてる。
「何かあったの?」
「先生が、私が作って来たお弁当を食べてくれたの」
「…そう」
「先生にとってはほんの気まぐれだったのかもしれないけど、」
凄く嬉しかったわとまた表情を変えた彼女に、息苦しさを覚えた。まるで水中に潜った時のようにぼんやり視界が歪んだのは気付かないフリをして唇を噛み締める。
こっちがこんなに必死なのを彼女は知らなくていい。これは自分自身が招いた結果で、今彼女は幸せなのだから。
「……猿飛さん、」
自分の口から出た低くて切羽詰まったような声に驚いて目を閉じる。それ以上藤色を見ていたら泣いてしまいそうだったから。
頭を垂れたのは別に降参したとか、彼女を祝福するためじゃない。
(人が幸せそうなのを見て辛いなんて、かなりひねくれてる)
ごめん。俺は君を祝福する事が出来ない。どうやら俺も沖田さんや先生と同じ類らしい。
口から飛び出し掛けた言葉を押し殺して、俺はもう一度。
よかったね、と笑顔で呟いた。
結局はそれに意味などなくて
(気付いても虚しい痛みが残るだけ)
Fin
─────────
3Zで山さち…というより山→さち?
もしかしたら銀さち←山寄りなのかもしれない。
彼女の幸せを邪魔したくなくて自分自身の気持ちを押し殺す山崎くん。
管理人山さち初めて書いたケドも山さち好きです。
.