Short Story

□届かぬ言葉
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『ごめんね』と。一言そう言えれば、どんなに心が軽くなるだろう



別れはいつだって突然で。


いつだって、大切な物は無くしてから気付くんだ。







いつもアイツが居る場所に、今日アイツは居なかった。


公園や駄菓子屋。会えばいつだって喧嘩出来たのに。


最初はどうせまたすぐに曲がり角で鉢合わせして、すぐにいつものやりとりが出来ると思っていた。


不思議なもので、いつもは欝陶しかったハズなのに。
喧嘩が出来ないと、何かが物足りなくて。


急に不安になった。
なんで今日は、いつもと違う今日なんだろう。


なんで今日に限って、こんなに不安になるんだろう。



「……新八」

「ん?」




万事屋に帰ると、新八がおかえりと迎えてくれて。どうやら銀時は寝ているようだった。



だが胸騒ぎは治まるどころかどんどん酷くなっていくばかりで。私は胸騒ぎをなんとかする為に、問い質してみる事にした。



「今日は何故かサドと一度も鉢合わせしなかったネ。サドの奴、風邪でも引いたアルか」



新八は神楽の言葉に目を見開くと、表情を曇らせた。



「神楽ちゃん…あのね……」



なんでそんなに泣きそうな顔をするの?

なんでそんなに苦しそうなの?

私はただ、アイツは元気か気になっただけなのに。

本当に、それだけだったのに



「神楽」

「銀さん…」



寝ていたハズの銀時が、いつの間にか近くに立っている。一瞬、今にも泣き出しそうな表情に見えたのはどうしてなんだろう?



「…真選組の奴ら、昨日危険な任務に出掛けたんだと。相手が悪かったのか、かなり重傷を負ったらしい」



真剣に言葉を紡いでいく銀時の顔をただ呆然と見つめる神楽に、新八はそっと震える肩に手を置いた。



「…アイツは…出血が酷くて……」




その後の言葉は、もう神楽の耳には届いていなかった。



* * * * *




アイツが、居なくなった。

嘘のように呆気なく。

死因は大量出血した為だとニュースで伝えられていた。


聞いた瞬間頭が真っ白になって。何も考えられなくなっていた。


いや…違う。考えたくなかった。
突き付けられた現実を、受け止めたくなかったんだ。




今までたくさん喧嘩して、
ムカつく奴で、
でも実力だけは不本意だけど認めてた。


「なぁ…」



お前が居なくなったら、私は誰を越えれば良いのか解らないだろ。

お前、私を倒すんじゃなかったのか?



(なんでこんなに苦しいの?)




苦しい。悲しい。苦しい。



様々な感情がごちゃまぜになって、今まで母を亡くした時以来感じた事がない程胸の中がざらついて。


喉の奥から込み上げてくる鳴咽を抑える事が出来ない。


涙がいくつもの斑点を布団に作っては、悲しみの波は大きくなっていった。



泣いて、泣いて、泣いて



たくさん泣いた後にポツリと頭に浮かんだ事




自分は思った程、アイツの事を嫌ってはいなかったんだ。


喧嘩も、本当は楽しかった。




昨日会った時怒りに任せて口から出てしまった言葉




『お前なんか大ッ嫌いアル!!』



そう言った後のアイツの酷く傷付いたような顔がふと頭を過ぎって



悲しくて、苦しくて、後悔した。




『ごめ…私、本当は……』



嫌いじゃなかった。嫌いなんかじゃなかったよ。




何故よりにもよって昨日言ってしまったんだろう



どうして最後の言葉が大嫌いだったんだろう




アイツの傷付いた顔も、時々見せた笑顔も、怒った顔も、




全部全部、走馬灯のように




浮かんでは、消えた。





Fin

 

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