Short Story
□冬空と君
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もう少しで、大好きなお隣の…
冬空と君
『シ…日番谷くん!!一緒に帰ろ?』
『今なんか言い掛けただろ』
『き、気のせい気のせい』
『…そーかよ』
いつものように、幼なじみと登下校。それは決して今に始まった事じゃない。小学校の頃もずっとそうしていたし、物心ついた時から隣に居て…それが当たり前になっていた。
寒いね、という雛森の呟きに適当に相槌を打ちながら外に出ると、ビューという音と共に冷たい風。
さすがに12月ともなると、寒さが厳しくなってくる。
『日番谷くん、』
『…なんだよ』
『もうすぐだね』
『何がだよ』
『えへへ…なんでもなーい!!』
…まただ。もう先週の終わりからずっと帰り道に同じやり取り。何が楽しいのか、このやり取りをした後大抵雛森は悪戯を思い付いた子供のように、だがとても嬉しそうに微笑むのだ。
なんでもないなら言うな、なんていつも思うものの。あまりに幸せそうに笑うものだから、雛森の笑顔に弱いのもあり今も口に出せずにいる。
『…お前好きだな、この話』
『えっ!?』
『先週末からずっとだぞ』
『うそっ、そんなにずっと言ってたの!?』
『ばーか、嘘ついてどうすんだよ。浮かれんのは勝手だがドジんなよ?』
そんな事しないもんっ、と真っ赤な顔で抗議。そんな彼女を置いて、どんどん歩を進める。
『早く来ないと置いて行きますよ雛森サン』
『むー…棒読み嫌なのに』
『なら早く来い。本当に置いてっちまうぞ?』
こう言えば素直に自分の元へと駆けてくる。寒いな、とわざとらしく呟いて手を握れば、恥ずかしがりながらも握り返してくれるから、本当に愛しくて仕方ない。
『ふふ、日番谷くん耳まで真っ赤』
『…るせェ。お前だって茹でダコじゃねーか』
『もう、ひどいなぁ』
そう言いながらクスクス笑い合っているうちに、気付いたらもう家の側で。
楽しい時間なんてあっという間なんだな、といつも思う。
『じゃあ、また明日ね』
『あァ。明日は日直だから寝坊すんなよ?』
『しないもんっ』
自宅に着いて、いつものやり取りをして。自分の部屋に入ってからも本当はずっと気付かれてないか心配だった。
だって相手はあの日番谷。きっと勘は人一倍鋭い
明日は、日番谷くんの誕生日。毎年プレゼントはあげてるけれど、今年は少し特別。
だって今年は、中学に入ってから初めての冬…中学生になってから初めての誕生日。
日番谷くんにとっては何ともない事かもしれないけれど、私には特別な事。
だから今年は頑張って、マフラーを編む事に決めた。部活も再来年にある受験も、頑張れるように願いを込めながら。
不器用なのは自分が1番よく解っているから、失敗して当日に間に合わなくならないようにかなり前から頑張ってきて。
『やったぁ…完成!!』
少し形はいびつだけど、気持ちをたくさん込めたマフラー。
どんな顔して受け取ってくれるんだろう、喜んでくれるだろうか。
本当に楽しみで仕方ない、なによりも誕生日を迎える本人よりもわくわくしている自分が居て。
『ふわぁっ!!もうこんな時間!?』
無事綺麗にラッピングし終わった頃には、短い針は2を指していた。
* * * * * * *
翌日、起床したのは8:00過ぎ。今日の目覚ましは携帯の着信音。遅刻しそうな為、本日の登校は自転車。
『馬鹿野郎!!昨日あれほど寝坊すんなって言ったじゃねぇか!!』
そう言って自転車に跨がった日番谷に、雛森は不機嫌そうに頬を膨らませた。
『謝ってるのに……そんなに怒らなくたって良いじゃないっ』
『…怒ってねぇ。呆れてんだこれは…ま、予想はしてたがなっ…!!』
『ふわぁっ!!』
ガチャリ、独特の金属音がして、景色が動き出した。
お約束ってヤツか、と自転車を飛ばす。それと同時に、腰に回された雛森の腕に力が篭る。
(ちょっと…言い過ぎちゃったかも…)
漕いで貰ってるのに…とちょっぴり罪悪感。なんだかんだ言いつつも、一緒に登校してくれる彼にはやっぱり敵わない。
『ねぇ、遅刻しちゃったらごめんね…!!』
全速力の中、風の音と共に耳に微かに入る謝罪の声。
『…ばーか。そんな事最初から気にしてねーよ』
わざと聞こえないふりをして、わざと聞こえないようにそう呟いた。
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