Short Story
□冬空と君
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この自転車、誰が漕いでると思ってんだ?心配しなくても遅刻なんて俺が絶対にさせねぇ
(…絶対言ってやらねぇけどな)
そんな心の声を彼女は知るよしもなく。チャイムが鳴る頃には、なんとか教室に入る事が出来て。それから放課後までは、本当にあっという間だった。
* * * * * *
『…ん…』
ふと気が付くと、部活を終えて帰り支度をしている生徒達の声に、一人だけの静かな教室。
日番谷の部活が終わるのを待っているうちに眠ってしまったようだ。窓を見れば、既に陽が傾き掛けている。
『あれ…ひつがや、くん…?』
覚醒したばかりの頭を働かせて周りを見回すと、あるハズの人影がそこにはなく。
放課後。静かな教室で、一人きり。
そう意識した途端、急にどうしようもなく心細くなってしまった。
『日番谷くん…もしかして先に帰っちゃったのかな…』
どうしよう…今日はマフラーを渡すつもりだったのに
昨日まであんなに一生懸命頑張ってたのに
『うう…シロちゃ…『誰がシロちゃんだ馬鹿森!!』
突然降って来た声に顔を上げると、そこには一人きりにさせた張本人。
雛森は日番谷の顔を見た途端、うっすらと涙を浮かべる。
『…シロちゃんの馬鹿!!先に帰ろうとするなんて酷いよ!!』
『馬鹿はお前だろ…!?俺は先に帰ろうとしてなんかしてねぇし、雛森が寝てるから一人で日誌置いて来ただけだろうが…』
呆れたように溜息をつき、頬杖を付きながら雛森と目線を合わせる。
『ご、ごめん…』
『謝んな、別に気にしてねーよ。だけど本当に良く寝てたよな…寝不足か?』
『ん〜…準備を張り切り過ぎて疲れちゃったのかも』
『…準備…?』
雛森はうん、と立ち上がると鞄から綺麗な袋を取り出し、日番谷に手渡した。
『お誕生日おめでとう、日番谷くん』
『…!!…誕生日、か…。すっかり忘れてた』
目を見開いた日番谷に、雛森はやっぱり…と苦笑い。
『もう、毎年そうなんだから…自分の誕生日なのに忘れちゃ駄目じゃない』
『別に良い。俺が忘れても雛森が覚えててくれるだろ?』
そんな恥ずかしい台詞を言うものだから、頬には熱。
なんだか照れ臭くて、『開けても良いか?』の言葉に黙って頷いた。
ガサガサ開ける音がして、暫くの沈黙。なにやら笑いを堪えているような気がして、どうしたのかと見上げてみれば、悪戯っ子のような眼をした彼。
『スゲーいびつ…』
『あっ、笑うなんてひど…』
不意に、重なる二つの影。
ポカポカと叩いていたハズの手は引かれ、目が合った瞬間、いつの間にか腕の中にすっぽりと納まっていた。
『でも、ありがとな』
『いびつなのに?』
『…そこに突っ込むな』
『ふふ、そうだね』
なんとも言い訳が彼らしい。バツが悪そうに視線を逸らした日番谷に、雛森は幸せそうに微笑んだ。
* * * * * *
校庭に出ると、すっかり陽が傾いてしまい空にはたくさんの星。
『陽が短いね…もうこんなに暗いなんて』
『冬だからな…』
そう言いながら空を見上げた首元には先程渡した贈り物。
彼の照れた表情が見たくて、思い付いた言葉を呟いてみる。
『有難う日番谷くん、生まれて来てくれて』
『…んだよ、唐突に…』
『えへへ、さっきのお返し!!』
照れ臭そうに頬を染めた日番谷に、悪戯っ子のように微笑んだ雛森。何かに気付いたように不敵に微笑んだ日番谷の次の言葉で逆に頬を染める事になるなんて、
“お前がそう言って側で笑ってくれるだけで、幸せなんだぜ?”
夢にも思わなかった。
惚れた弱みだとか、そんな事を言うなんてちょっとずるいとか。
言いたい事はたくさんあったけれど、そんな考えが浮かぶ前に頬を染めてしまう私は、本当に彼が大好きなんだと思う。
あぁ、本当に敵わない。
〜Fin〜