Short Story
□陽射しの中の小さな恋
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『要らねェなら要らねェって言『貰うに決まってるネ』
言葉を遮られ、沖田は『なんでィ…』と不機嫌そうな顔をしてアイスの袋を開けた。
ほとんどのゴリゴリ君を沖田から奪ってたくさん口に詰め込みながら、神楽はふと自分の枕元に忘れたハズの傘がある事に気付いた。
(もしかしてサドが持ってきてくれたアルか…?)
『おい、サド』
『なんだよ』
『……なんでもねーヨ』
『ふ〜ん…冷え過ぎてとうとう頭がおかしくなったか』
勢いよく沖田をしばき、『痛っ…戦るのかチャイナ!!』という声を聞きながら、また疑問が浮かぶ。
(そーいえば…私此処にどうやって来たネ……)
そこまで考えて首を振った。あれこれ考えるのはやめよう、と。
サドの事だ。
自分で傘や神楽を此処まで運んで来たなら自分から宣言して弱みを握り、利用するだろう。
理由はどうであれ、自分は暑さから開放され、日影の下でアイスを貧り食っている。
その事実だけで良い、と思った。
『チッ…現金なヤツ』
『タダより美味い物は無いアル』
そう言ってニンマリする神楽を見て、少年の頬が少し緩んだように見えた。
『あ、当たりが出たら俺のな』
『なに言ってるネ!私の物アル!』
『そんなに言うならやらなくもねェ。ただし条件付きで…『なら要らねェヨ』
涼しさのせいだろうか、いつもより言い合いが楽しく感じる。
目の前に広がる、橙色に染まり始めた江戸の街を眺めながら隣同士になる二人。
『此処、良いところアルな…涼しくて』
『此処は俺のお気に入りの場所なんでィ』
『マジでか。私の新しい支配地になりそうネ、だから譲れ』
『ダメに決まってんだろ。ヘドが出らァ』
『…こっちの台詞アル』
その後黙り込んでしまった沖田が気になりふと隣を見ると、橙色に染まり、少し憂いを帯びた表情を浮かべた横顔。
不覚にも少しドキリとした。
『あ、俺もう帰らねェと』
突然発せられた声に、少し高鳴った胸を必死に抑えながら出来るだけ普段通りに『急ぎか?』と返す。
『ドラマの再放送が始まっちまうんでねィ』
『マジでか』
沖田は立ち上がり大きく伸びをする。そして、少女に背を向けたまま歩き出した。
その背をじっと見つめながら溜め息をつく(挨拶ぐらいしてけヨ)
と、突然何かを思い出したように沖田が振り向いた。
また心臓が少し高鳴る。
『しばらくチャイナの様子見てたケド、残念ながら死んでねェみたいでさァ。安心しろィ』
悪戯げな顔をして棒読みで言う姿に少し驚いたが、安心したように頬を緩める。
『お、オウ!当たり前アル!私が簡単にくたばる訳無いネ』
その言葉を聞いてふっと笑った沖田のその顔は、これまでにないほど優しい。
『じゃあなチャイナ。また戦ろうぜィ』
そう言い残してまた踵を返し、スタスタ歩いて行く。
『望むところアル!またなーサド!』
神楽は立ち上がり、大きく息を吸い込んで元気よく叫ぶ。
そして足元にある傘を開き、万事屋へと駆け出した。
今日は、サドのいつもとは違う一面を見た気がする。
そして、もっともっとたくさん違う一面を見てみたい…と心の片隅で思った。
それは、ある夏の陽射しが強い日。
小さな少女に芽生えた小さな恋の物語。
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