Short Story

□陽射しの中の小さな恋
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気付けば、会う口実を探してた。


それが『恋』なんだと気付くのは、もう少しあとの話――――













陽射しの中の小さな恋

〜総悟side〜











『今日も暑いな…あとで土方に毒でも盛るか』




今日もほぼ無表情な顔で江戸の街を歩き回る(巡回という名のサボり)。自分でも中々真面目だと思う。こんな暑い日に仕事をしているのだから。


こんな日は、土方に毒を盛るに限る。





『ん…?』





巡回中の沖田の視界にふと、目に入った鮮やかなピンク色。



チャイナ、か。

何をあんなに嬉しそうな顔して急いでるんだ?



傘から時折覗かせる高く結んだアイツ独特のスタイル。今日は嫌に涼しげに見えて、なんだかムカつく。





…と、沖田は少女が嫌がりそうな事を考えた。




(あの様子じゃ…どうせお決まりの駄菓子屋…)




――先回り、してやる。




直ぐさま沖田は近道である路地裏に入り、駄菓子屋に足を踏み入れた。



アイツになんで居るんだ?って聞かれたらなんて答えよう。
そうだ、『土方にまいう〜棒を頼まれた』にしよう。


さすがに何も買わないで駄菓子屋に居るのもアレだし、ゴリゴリ君でも買うとするか。



『おや、いらっしゃい』


駄菓子屋に入ると、いつものおばちゃんは沖田の姿を確認し、僅かに微笑んだ。


『今日も暑いねェ』


『そうだねィ…おばちゃん、夏バテしても構わねェぜ?』


『どういう意味だぃ…そりゃ』




チャイナが来るまで世間話でもしながら時間を潰すしかない。



沖田は適当に相槌を打ちながら、適当に店内を見回す。



しばらくして、少女の軽く小さな走り寄る音が響いた。



沖田は、少しの胸の高鳴りを感じた自分に嫌悪感と違和感、そして疑問を抱く。




(何を緊張してんだ?たかがチャイナに……)




そんな事を考えながら店内を見回すフリ。すると勢いよく扉が開く音が沖田の耳に届いた。




『あ』



気がつけば、俺は無意識のうちに振り返り声を出していた。




『……んだヨ』




視線の先には不機嫌そうな少女の姿。
その表情に、少しの胸の痛みを覚えた。



(………?)




感じた事のない痛みに僅かに戸惑いながら『なんでィ…チャイナか』と普通に返す事に成功。



『こっちのセリフアル』



表情を変えずにそう言う少女。本当に恐れを知らねェんだな…と思う。



『私の気分を台なしにするんじゃないネ!!凄くむしゃくしゃするアル』



――そんな事知ってる。本当に解りやすいヤツ。まぁ俺が好きでむしゃくしゃさせてんだけどな。



『こっちのセリフでィ』


『なんでこんな所に居るアルか…家出少年Aか?』


『俺がどこに居ようと俺の勝手だろィ』




――最初に考えた言葉と違くねェか?





チャイナを怒らせる為、なんて言ったらどういう表情浮かべるか気にはなったけれど、何故か口から出たのは違う言葉で。



目の前で酢昆布をわしづかみにしておばちゃんに渡す神楽を見ながら、沖田は溜息をつく。



理由が解らない溜息を。




(………いつにも増してつれないヤツ)




『可愛くないヤツアル』


『そりゃどーも』





いつものように睨み合って、暫くするとアイツはそっぽを向いて走り去って行った。





* * * * * *





(…あ〜あ。)




…オィ…何があ〜あなんだ?あんなヤツ居なくなったほうが清々するじゃねーか。
……なんか矛盾してるな…自分でも訳解んねェや。




ピンク色の髪の少女の小さな後ろ姿を見送って息をつく。




『挨拶ぐらいしていけって今度教えねェとなァ』



沖田はおばちゃんに『ゴリゴリ君のバター味くれ』と一言。




『ようやく決まったのかい?今日はえらく悩んでたねぇ』




おばちゃんがクスクス笑いながら袋を取り出す。



『たまにはそーいう時もあるんでさァ』



『そうかい…』



沖田のつれない返事に曖昧に答えながら、おばちゃんはふと、手元に目を向けて驚いた。



『嫌だよあの子!!この暑い日に傘を忘れるなんて…』




沖田は思わず目を見開く。




『倒れたらどうするんだい』





この言葉は、既に耳には届いて居なかった。





傘を片手に、気付いたら走っていた。



あの小さなピンクの後ろ姿を探して懸命に走っていた。







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