Short Story
□陽射しの中の小さな恋
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前、どこかで聞いた事があった。
チャイナは、夜兎族は日の光に弱い事を。
倒れるとかそんな問題じゃなく、命に関わるかもしれないと。
そんな最悪な事を想像して足を止められなかった。
喉が焼けるように渇き、息があがる。
それでも沖田は足を止めようとはしなかった。
『…っ…!!』
やっと見つけたアイツの後ろ姿は、カゲロウの中今にも消えてしまいそうで
『チャイナァ!!』
俺は無意識にそう叫んでいた。
ぐったりと倒れた神楽に駆け寄り抱き起こし『しっかりしろィ、チャイナ!!』と声を掛ける…が、反応はない。
俺は焦りながら、とにかく日影に運ぶ事を考えた。
チャイナを抱くと、俺は走り出す。
――軽い…あんなに大食いなハズなのに変なヤツ。
いつもは遠くに居るチャイナが俺の腕の中に今居る。そう思うと、なんだかくすぐったくなった。
沖田は神楽を大木の木陰に寝かせると、持っていたハンカチで汗を拭いてあげた。
(それより濡らしたほうがよかったか…)
ハンカチを近くの公園の水道で濡らし、神楽の額に乗せる。
すると先程よりは苦しげな表情ではなくなった。
(感謝しろィ、チャイナ)
その表情に安心したのか、少し顔を緩ませる総悟。
暫く穏やかに神楽の表情を観察していたが、自分の頬に熱がある事に気付き、顔を反らし、顔を叩いて小さく苦笑いをする。
(今日はどうやら俺の負けみたいだな)
(冷たいモンでも買ってくるか…)
すっかり熱を吸い込んだハンカチを持ち、空を見上げて今日何度目かの溜息を一つ。
空から降り注ぐ陽射しも、先程までとは違い優しく見えた。
それから数時間後、沖田がコンビニから戻ってくると神楽が目を覚ましていた。
『きっと…此処は天国ネ』
何となく近寄りづらくて暫く立ち尽くすが、随分静かだな…と思い袋を持って近寄ってみた。
(……!!)
思わず、目を疑った。
だが確かに少女の目からは一筋の雫。
――そんなカオすんな。
そんな事を思いながら慰めようとしたが、掛けていい言葉が見つからなかった。
どうしたら良いのかも、解らなかった。
『バカだろ、お前』
そして口から出たのがこの言葉。
気の利いた事も言えないとは…と内心自分に苦笑い。
少女は涙で潤んだ虚ろな瞳で、だがしっかりと少年を見据えた。
神楽の蒼く大きな瞳には、沖田の姿が映っているのが見える。
(スゲェや…鏡みてェ)
今までこんなに近くで神楽の瞳を見たことがなかった為、沖田にはとても珍しく見えた。
沖田はまだその瞳を見ていたかったが、泣き顔を見られたくないのか、神楽に腕で塞がれた為鑑賞出来なくなった。
『バカとは何ヨ。バカはお前アル』
(チッ…)
全然変わってねェ…と思わず溜息を漏らす。
『嫌な顔の天使様アルな。それともオマエも此処に来たのか?オマエは地獄行きだと私は睨んでたネ』
(起きて早々喧嘩ごしかィ)
そう内心ムカつきながら
『俺がそう簡単にくたばる訳ねェだろィ。寝ぼけてないでとっとと起きろ』と一言。
チャイナはそのまま不機嫌そうに黙っている。
このまま重い雰囲気になり沈黙が続きそうだった。
それは何となく気まずいと思い、俺は手元のアイスを思い出しそれを口実に…とチャイナの隣に腰を降ろす。
『俺一人じゃ食い切れねェや。チャイナ、お前も手伝え』
『…??』
俺はチャイナに大量のゴリゴリ君を見せる。
『ゴリゴリ君じゃねーかヨ!!こんなにたくさん買い込むなんて欲張りなヤツアルな』
そう言って跳び上がるように起き上がったアイツは、さっきまでと違い元気そうだった。
『要らねェなら要らねェって言『貰うに決まってるネ』
言葉を遮られて俺は少しいらついた。
ほとんどのゴリゴリ君を奪われ、沖田は一つのアイスを頬張っていた。
気付かれないように、神楽の横顔を見ながら。
『おい、サド』
いきなり話し掛けられ、内心バレたんじゃないかと焦りながら
『なんだよ』と返答する。
『……なんでもねーヨ』
(…は?)
『ふ〜ん…冷えすぎてとうとう頭がおかしくなったか』
次の瞬間神楽が勢いよく殴ってきた為、加勢しようと思ったが、すぐに神楽が黙り込んでしまったので攻撃出来ずにいた。
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