Short Story

□頑固親父に憧れる
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「娘さんを…僕にくださいっ!!」

「ダメだ!!娘は絶対渡さん!!!おととい来やがれェェェ!!」



土下座をしながらそう言う新八を、今にもちゃぶ台をひっくり返しそうな勢いでことごとく拒否しているのはこの物語の主人公、坂田銀時。



「お父様ひどいヨ!!この人は真剣に私の事を…」

「ええ〜い、黙らっしゃい!!」



なんでこんな状況になったのかというと、それはほんの数十分前にさかのぼる。





頑固親父に憧れる





───数十分前。



「銀ちゃん新八ィ、私一回やってみたかった事があるネ」


仕事の依頼もこないので、仕方なく(?)居間でダラけていた時の事。突然神楽がそんな事を言い出したのだ。



「……あァ?なんだよいきなり…頭にカビでも生えたか?」

「お前黙っとけヨ」

「何?神楽ちゃん」



新八はいくらか興味を示したが、当の天パは聞く耳を持たない。


こころなしか、先程より声が怠そうだ。


内心そんな銀時に腹を立てながら、神楽はえっへん!!と何故か胸を張ってこう言った。



「結婚申し込みごっこアル」

「「はぁ…?」」

「ホラ、『娘っ子をあっしに渡せ』ってパピーに言うヤツアル」

「神楽ちゃんドラマの見過ぎ…」



新八は苦笑いを浮かべるが、銀時は鼻をほじりながらため息をつく。



「オイオイ…それを言うなら『糖分渡せ、フンドシ締めろ、ついでに娘も今すぐ渡せ』ってヤツだろうが」

「なんかどっかのキャッチコピーみたいになってるじゃないスか」

「ガキの遊びに付き合う程俺ァ暇じゃねェんだよ。ままごとなら外でやれ外で」

「いや、今日暇じゃないスか」



新八の発言を軽くスルーした銀時はそのままソファーに寝そべり、手元にあったジャンプに手を伸ばし読み始める。


神楽は不機嫌そうに顔を歪めながら銀時の側に近付き、その天パの一部を勢いよく引っこ抜いた。



「いだだだだだ!髪!おまっ、髪が一部無くなったよ!?」

「髪の一部が引越ししたがってたネ」

「オメーの頭も引越しさせてやろーかアン?」

「ま、まぁまぁ…たまには遊びに付き合うのも悪くないじゃないですか…やりましょうよ、銀さん」


つかみ合う二人の間に入ってなだめてみるものの、銀時・神楽に殴り飛ばされ、結局新八も喧嘩に加わった。

大乱闘の末、なんとか様々な理由をつけて遊びに付き合う事になった。



そんなこんなで現在に至る訳だが。


居間のテーブルを挟み相向かいに座る三人。もちろん新八の隣は神楽である。



「じゃあ、新八がアタイと結婚するって設定で頼むアル」

「あ、うん…つかなんでアタイ?」

「それで銀ちゃんが娘はやらん!!って頑固親父ヨ、わかったか?」

「え、"アタイ"はスルー?」

「オイオイ、リアル過ぎるだろうが…ク○ヨン○んちゃんの○ネちゃんかオメーは」

「○が多過ぎて分かんねェヨ。リアルじゃなきゃ意味ないネ」

「アハハ…でも、一応字伏せないとさ」



新八は苦笑しながら神楽に説明する。しかし神楽はそんな話は聞いてなかったようで『そんな事気にするな新八ィ!!どうせ誰も見てねェヨ!!』と熱く語り出した。



「それだと誰も見てなきゃ犯罪しても良いって事になんない!?」

「ちっ…面倒臭ぇなァ…」



そんな二人の言い合いを横目で見ながら銀時は怠そうにテーブルの上に置いてある(神楽が設置した?)ファ○タの空き缶を見つめる。


(なにコレ…ひょっとしてビールのつもりなの?)



「その通りアル」

「オイ、なんで考えてる事解ったの?」

「まぁ良いや、とにかく始めますよ?」

「無視?」



軽くスルーされた主人公はガックリと肩を落とした。



* * * * *


「娘さんを僕にください!!!」

「お父様、どうか結婚を許してほしいヨ!!」


いざゴッコが始まると、意外と新八も神楽も迫真の演技だった為、乗り気でなかった銀時も次第に劇に流されていった。



「ダメだ。娘はやらん!!」

「…お父さん、僕は娘さんを必ず幸せにする事を誓います!」

「お前なんかにお父さん呼ばわりされたくないわ!!出ていけ!」



俺って実は頑固親父に向いてるんじゃね?と銀時が考えていると、神楽は何やらゴソゴソと取り出し、こう宣言した。



「認めてくれたっていいじゃないかヨ!!ホラ、この子も生まれた事だし」

「え!?ちょ、ちょっと…」

「と、虎だとォォォ!?」



神楽が腕に抱えていたのは、某子供向け教育番組のトラのぬいぐるみだった。


「オィィィィィ!!まだ結婚もしてないのに子供ってどういう事だオメーは!?しかもトラじゃねぇか!しま○ろうじゃねぇか!!」

「え、いや…これは何かの間違いですよ!結婚もしてないのに手を出すような真似は絶対しませんから!!」



予想外の展開に焦りながら半ば言い訳に近い発言をする新八。



「オメー以外に誰が居るんだよ!このケダモノがァァァァ!!」

「ひどいわあなた!!この子は私とあなたの子供なのに!!」

「んな訳あるかァァァァ!だいたい、僕と神楽ちゃんからトラは絶対産まれませんよ!!どう考えたって無理が…」

「何言ってるアルか!!そんなモン私と新八の遺伝子が化学反応を起こして突然変異したに決まってるだろうが!!」

「無理無理無理!!!絶対ないよソレ!!」

「フッ…実はな…新八はトラと人間の間に生まれた子で…」

「マジでか!?そんなヤツと結婚なんか許さんぞ父さんは!!」

「何ソレ!?変な設定付け加えなくて良いから!!」


思い切りケダモノ扱いされた哀れな新八。彼が報われる日は、多分来ないだろう。


「おぉ〜よしよし、お父さんがうるさいでちゅね〜お前は『しまじろう』と名付けましょう」

「まだ名付けてなかったの!?…しかもまんまじゃん!字伏せた意味なくなったんですけど」


そんな事を言いながらも新八は、神楽が大事そうにしまじろうを抱えるのを見て、やっぱり母性本能がある女の子なんだなぁ…としみじみ思った。



「とにかく!お父さんはなァ、半分トラだから…なんて言えば良いか…」

「半トラ人間アル」

「そう、それだ!!半トラ人間と結婚なんて反対だから」


そういうと銀時は手元のフ○ンタの空き缶を持ち、飲む真似をした。


「そんな…許してヨお父様…!半トラ人間だって生き物ネ!半分は人間なんだヨ!差別反対!!」


神楽はテーブルに手を置いて立ち上がる。そんな神楽を銀時は『我が儘言うなって…これが自然界の掟だ、諦めろ神楽』となだめた。


「だから半トラ人間ってなんだよ!!…無意味に新しい単語作らないで下さいよ…しかもあいにく、僕にはそんな設定ないですから」


話が全然進まないじゃねーかよ!とぶつぶつ文句を言う新八の耳に神楽は酢昆布を突っ込みながら『ムシャムシャ言うなや』と抗議した。


「ちょ、神楽ちゃんなにすんのォォォ!?耳が臭くなるんですけど!!つかムシャムシャって何!?」
「オイオイ…ノリが悪ィぞ半トラちん八君」

「変な愛称付けないでください」


新八が呆れた顔でそう言うと、銀時は頭を掻いて一言。



「アレだ、普通に呼ぶより愛称があったほうが人気も出るだろ?」

「人の傷口ほじくるのやめてくんない!?」

「傷口じゃねぇよ、これは銀さん流の励まし方で…」

「なおさら悪いわ!!」


ツッコミ疲れたのか、新八はソファーに倒れるように座ると盛大にため息をついた。

その様子を見ていた神楽は『銀ちゃん』と何事もなかったように声をかけた為、事実上新八の傷口は掘り起こされたままになった。


「んだよ?」

「結局結婚認めないアルか?」



銀時は神楽のこの言葉に少しだけ顔を歪ませた後、馬鹿にしたように『お前みたいなガキにはまだ結婚は早いんですぅ〜』と頭をぐしゃぐしゃ、と乱暴に撫でてやった。


「ゴッコなのに過保護過ぎネ。これじゃお嫁にも行けねェヨ」

「なんとでも言え、マセガキ」

「ホントに心配し過ぎですよ」



クスクス笑いながらそう言って、二人の様子を隣で見ていた新八は、これは銀さんの強がりなんだな…と気付いていた。

──当の天パ本人はその事にまったく気付いてないようだが。



(寂しいなら寂しいって言えば良いのに)



「オイ、何ニヤニヤ笑ってんだ新八。眼鏡割られてェのか?」

「いえ、別になんでもないですよ?」

「気味悪い笑い方アルな〜」

「はいはい、なんとでも言って」




クスクス笑う新八を見てバツが悪くなったのか小さく舌打ちをし、銀時は『糖分切れて力が出ねェから苺牛乳買ってくるわ』と玄関に向かって行った。



(まったくしょうがない人だな、本当に子どもみたいだ)



「オイ、銀ちゃん!…チィッ、逃がしたか…」

「アハハ、そうだね…銀さん、糖分無いと生きてけない人だし…でも結構楽しかったね」

「……まァな」



話を合わせるのは、
このことは神楽ちゃんには言わないでいてやろう、という思いがあるから。それが新八なりの思いやりだった。

新八は今日何度浮かべたであろう苦笑いをしながら『お茶でもいれようか』と話を変える事にした。


「酢昆布頼み忘れたアル…一生の不覚ネ」

「そっち!?」



そのあと、また今度ゴッコに付き合って貰う!!!と意気込む神楽を見ながら、新八は優しく笑った。


「また僕も付き合うよ」

「マジでか!!」


たまには遊びに付き合うのも、悪くない。そう思った。



* * * * *



「…ハァ…今日は糖分消費すんの早かったなァオイ…仕事より疲れたってお前…アレだよな、歳?」


その頃銀時は、原チャリを走らせながらコンビニに向かっていた。

もうすぐ江戸の街が橙色に染まる事を、朱く色づき始めた空が知らせていた。


「新八のヤツ…アレ絶対何か企んでる眼だったな…これだから思春期のガキは…」


帰ったら第一回眼鏡割り大会を決行する事にしよう。



「でもまァ、たまにはああいう遊びも悪かねェか…しっかし…」



親ってのも大変だよな…



そこまで考えて、銀時はふと、もし自分の立場だったらああなるんだろうか?と疑問が一つ浮かんだ。


神楽がもし、俺のところに結婚したいヤツを連れてきたら。


やっぱりドラマのように頑固親父になるんだろうか。



(いや、でもアイツの結婚相手なんて想像出来ねー…つーか貰ってくれるヤツ居るとは思えないからね、うん)


若干失礼な事を考えながら原チャリを走らせる銀時の背中は、妙に寂しく見えた。



(頑固親父、ねえ…)
そんな事を考えながら見上げた空は嫌に鮮やかで。
(しゃあねェなァ…)





帰宅した銀時の手元の袋の中を見て、神楽が笑顔になるのはもう少し後の話。






〜Fin〜





 

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