Short Story

□未来予想図
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いずれこうなる事は解ってた。



皆とはずっと一緒に居られない事も



だから皆と過ごす一瞬一瞬がとても大切で、後悔しないように毎日を過ごしたかったんだ。












卒業。それは3年生の私達にはごく身近な言葉。あれほど長く感じた高校生活も、3年ともなると本当にあっという間で。



明日、私達はこの学校を巣立って行く。




そして私は、



『なんでこんなギリギリまで言わなかったんでィ』




自分の生まれ育った国へと帰る。




『…遅ェよ』




『…そうアルな』





放課後。いつものように屋上へ行ってただ一言そう告げた。





帰国する、と。





卒業式も間直に迫っているからか喧嘩をする気も起きなくて。


口喧嘩はするものの、つかみ合いの喧嘩もなく、互いにここ数日本当に穏やかに接してこれた。



最後ぐらいは喧嘩しないで終わりたい、という気持ちがあったからだろうか。




『なんだかんだテメーと長い付き合いの俺にはもっと早く知る権利があるハズだろィ?』



『…悪かったネ』



『なんでィ、今日はやけに素直じゃねーか』




私は本当に湿っぽいのが嫌いで、帰国の事も皆には黙っていようと思っていた。


だが、やはり顔に出てしまっていたんだろう。問い詰められ、沖田にはあっさりバレてしまった。


せめてコイツには知られたくはなかったのに…
きっと帰りたくない、と縋ってしまうから。



『私湿っぽいの嫌。だから言いたくなかったアル。…それに最後ぐらいは喧嘩したくないネ。綺麗に終わりたいアル』



『…そうだな』





じわりと視界が歪んだ。




何も後悔はない、なんて嘘でも言えなかった。
本当は後悔なんて山ほどある。



言いたい事もたくさんあったのに、自分の口から出てくるのは可愛くない言葉ばかりで。





(――違う。私が言いたかったのはこんな事じゃない)




伝えたかった

本当は喧嘩も楽しかった事。





伝えたかった

自分の本当の気持ち。





――でも…今更言えないネ。




時間はあんなにあったハズなのに、なぜ気持ちを伝えられなかったんだろう。



結局私は気持ちを伝える事も、今の関係を壊してしまうかもしれない、という不安から出来なかった臆病者でしかなくて。



『明日でお別れ…か。清々するって言いたいとこだが、寂しくなるねィ』



『喧嘩する相手が居なくなるから…アルか?』




『…いや、そういう意味じゃねェ』




鼻をすすりながらも、出来るだけ普通に、いつも通りに言ったつもりだった。

だが、やはり声は自分でも解る程弱々しく震えて聞こえる。



それでもどこか優しい声で普通に返事返してくれるのは、私が弱いところを見られるのが苦手だという事を知っていたからだと思う。



私だけ泣いてるなんて格好悪い。
少しでも表情を隠せる眼鏡をしていて良かった。




『なァ、』




沖田は軽く苦笑すると少女のほうに向き直り、眼鏡にそっと手を掛ける。




『…!』





壊れ物を扱うように、指でそっと涙を拭って。



涙で濡れた蒼い瞳に、少年の優しく微笑んだ顔が映る。





『お前の事、好き』





思わず目を見開いて、一時停止したかのように目を反らす事が出来ない。


だが突然の事で停止した思考回路でも、その言葉を理解するのはあっという間だった。




『…うそ、』



『嘘じゃねぇ』



『ほんと、に?』


『うん』



嬉しいはずなのに零すのは複雑な涙で。
あとからあとから零れて止まる様子もない。



ただただ泣きじゃくる神楽を慰めるように、沖田はそっと手をを伸ばす。



初めて抱き締めた彼女は、小さな普通の女の子だった。





『…遅い、ヨ』




『うん』





だって卒業したら帰っちゃうんだよ?もう会えないかもしれないんだよ?




『私だって、』



『うん』



『好き、アル』



『知ってる』





もっと早く気持ちを伝えていたら、もっと早く帰国する事を伝えていたら。



もっと楽しい思い出を残す事が出来たのだろうか。



涙はとめどなく溢れて、ただそんな自分の側に居てくれる沖田の優しさが本当に嬉しかった。

そんな二人を、橙に染まり始めた空だけが見守っていた。




* * * * * * *





『言うならもっと早く言えヨ』




『テメーもな』




たくさん泣いてやっと少し落ち着いた。…おかげで眼は赤く腫れているが。


やっと泣きやんだ神楽に安心してお互いいつも通りに悪態を付いてみる。


その事すら楽しく思えて、どちらからともなくクスクス静かに笑い合った。

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