Short Story

□与えてくれたのは、
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『本当に、そう思っておるのか』



冷たい声だ。



拒絶、された。
上から降る痛い程の視線に、恐怖で顔を見ることが出来ない。




自分で紡いでも悲しくなる言葉を吐いた。
軽蔑されても仕方がないのに。




―――私は、愚か者だ




この方に見捨てられることを、一番恐れているのに。





『…悲しいことを、言うな』




目を固く閉ざした瞬間、華に似た香りに包まれた。



それはどこか懐かしく、安心させてくれる匂い。



混乱した頭で何が起こったのか整理する。




『よるいち、さ…』




主――夜一に、抱き締められているのだ。



砕蜂が涙を零すには、充分過ぎるぐらいだった。



『――…っ、』




『砕蜂…儂はお主をそんなことの為に刑軍に呼んだ訳ではない』




拒絶じゃなく、怒った訳でもなく。
軽蔑させた訳でもない。



私は主を


夜一様を、悲しませてしまったんだ。




『お主を手足のように扱うつもりもない。…ただ、』



互いに信頼し合い、共に戦いたいだけ。



道具としてではなく、仲間として―――





のう、砕蜂




一緒に、生きてはくれぬか?




儂の為に命を落としていいなんて悲しいことを言うな。



自分の生まれた日はどうでもいいなんて苦しいことを言うな。




『……っ、』



『儂にとって、明日は砕蜂が生まれた大切な日じゃ。自分も明日も、無下に扱うな』



『…ハイ、』



『解ったなら良い』



そこから涙は止まることを知らずに、溢れ出る気持ちは言葉にならず。



何故自分の生まれた日が大切か解るか?


生まれてきたことに、感謝する日だからじゃ。



ゆっくりと諭すような話を、頭を撫でられながら静かに聞いていた。




『――砕蜂、生まれてきてくれて有難う。本当に感謝しておる』




柔らかく微笑みながらのくすぐったいその言葉が、本当に涙が出る程嬉しかった。




生まれてきたことに主に感謝されるなんて



それが一番の贈り物かもしれない。



(有難うございます、夜一様……)



腫れた目で見上げた空は、いつも以上に綺麗に見えた。





なんの意味も持たなかったハズの2/11。



今日という日に意味を与えてくれたのは、貴女でした。






与えてくれたのは、


(生まれ堕ちて貴女に出逢えた事を、感謝します)





〜Fin〜


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