Short Story

□パシリも愛故なのさ。
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それは夏休みも終盤に近付いた頃。…と言ってもまだまだ日はあるが。暇を持て余し部屋でダラけて(主に啓吾が)いた時、この部屋の主がポツリとこんな事を呟いたのだ。




『なぁー、水色課題終わった?』




水色もそれを側で聞いていた一護も、突然何を言い出すんだコイツは、と言いたげな表情を浮かべた。



まぁ学生だから相応しいといえば相応しい話題だけれど、まさか啓吾の口からその単語が飛び出すとは思っていなかったのだ(かなり失礼)。



答えないと面倒な事になりかねないので、んー…と少し考えてながら黒髪の少年はアイスをスプーンですくって口に放った。独特の冷たさと爽やかな酸味を味わいながら、天井を見上げる。




『8割ぐらいはね』



『ほとんどじゃねェかよ!じゃあ一護は?』



『…終わった』



『なッ!…い、一護の鬼!裏切り者ー!俺なんて、俺なんてまだ全然なんだぞ!?』



ズルいぞ!いつやったんだよお前らだって俺と遊んでたくせに〜!



答えても答えなくてもどっちにしろこうなるのか。泣き出す啓吾にもはや二人は呆れ顔。一体どうしろと言うのか。


『なんだそりゃ…つか自分のせいだろ』



『ハァ…いい加減にして下さいよ浅野さん』



『敬語は嫌ァァァァ!なんでいちいち距離置くかなぁ!なぁ水色!俺ら友達だろっ!?』



『距離を感じるのは気のせいですよ浅野さーん』


『そうですよ浅野さん』



だが奴がこうなる事は日常茶飯事。彼の扱いには手慣れたもので、微動だにせず軽く遇う。ただいつもと違うのは、普段はそういう事には乗らない一護も水色にならって一緒に遇った事だろうか。



(…一護…?)




その事に軽く目を見開くも、すぐに橙を見て楽しそうに微笑んだのは水色。啓吾には悪いけど、なんだかすごく楽しい気分。



そんな事を知るよしもなく、不幸ないじられ少年は二人を交互に見てさらに涙の量がアップ。一護が大袈裟なリアクションを取るところは家の親父に似てるな…と思ったのは言うまでもない。



『なッ…一護お前まで!…ふ、フンッ!もういいさ、お前らなんかもう一緒に遊んでやらないモンね!遊んでやるもんか!もう友達じゃないやい!』



正直楽しくなってきていたケド、もうそろそろやめてあげないと可哀相かな、なんて。不意に思い困ったように笑いを零す。




『…あのねぇ…、何を拗ねてるのか知らないけど、何も宿題教えないなんて言ってないでしょ。ね?一護』




『!何ィィ!?本当か水色!』




『ああ。どうせ暇だしな…』




『水色!一護ォォォォ!…さすが俺の親友!持つべきものは友達だ!』




フォローの言葉を紡ぐと、先程迄の涙が嘘のよう。表情がコロコロ変わってあっという間に笑顔になって抱き付いてきた(一護と同じく間一髪で避けた)。熱苦しいなぁ…まったく、調子いいんだから。




でもそんな啓吾が嫌いじゃないのは、一護もきっと同じで。だからこそ悪戯心が働いてしまうのが性。





『でもどうしよっかなぁ?さっき友達じゃないみたいな事言ってたみたいだし?ねぇ黒崎くん』




ね?と楽しそうに一護の顔を覗く。…と、水色の考えを彼も理解したようで




『そうだな、どうしましょうか小島くん』




と楽しそうにからかいに乗っかった。




え、何?どういう事?と思い切り顔に書かれている少年を前に、話を続ける。




『友達じゃないなら教える必要ないですよね黒崎くん』




『そういう事になりますね』




棒読みな言い方をする二人にようやく気付いたのか、慌てたように腕を振る。



『だぁぁぁうそ嘘!あんなの本気じゃねぇって〜!だから機嫌直してくれよ…な?』




申し訳なさげに手を合わせる啓吾に、二人は顔を見合わせて笑った。



本当は気にしてなんかいない。ただその言葉を待っていた。言ったな啓吾さん。もう取り消しはきかないぞ!





『じゃ、ジュース』



『俺はコーヒーな』



『…わかったよ…』





見え見えの魂胆に引っ掛かった哀れな少年は肩を落とす。だが、3人の表情はとても楽しそうだ。




さ、飲み物を買いに行くかとゆっくり立ち上がり部屋を出ようとした時、後ろからとんでもない発言が背中にかかった。



『あ、そうそう。教えるって言ってもやり方だけね。答えはダメだよ』



『お、鬼ーーーーーー!!』




その日、哀れな少年の叫びが街に響き渡ったそうな。





パシリも愛故なのさ。
(なんだかんだで愛されているのです)





Fin



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