Short Story
□屋上のフェンス
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『オイ、危ねェから降り…』
『なァ!!』
顔は夕日に向けたまま、わざと声を大きくして話を遮る。
『さっき言いかけた事、何アルか?』
『…あァ、』
沖田は一つ息を付くと、同じようにフェンスから身を乗り出した。
『センスが良いって言い切るんなら、これから勝負しようぜィ』
『買い出しで…アルか?』
神楽を見て頷くと、嫌なら止めても良いんだぜィ?と口角を吊り上げた。
こんな事を言えば、負けず嫌いの彼女がなんと答えるか解っているから。
『臨むところネ!!』
気合い充分にそう言って微笑むと、フェンスから降り出口へと駆け出した。
『先に行ってるネ、早く来るアル!!』
『おう』
軽く相槌を打って桃色の背中を見送ると、再び視線を橙に移した。
――まさかこうも上手く行くとは。
アイツは、これはよく考えればちょっとしたデートなんだと気付いているんだろうか。
(…たまにはパシリも悪くないかもなァ)
そのうち額の文字に気付き怒るであろう少女を想像しながら、沖田は楽しそうに口に入れたばかりの風船ガムを膨らませる。
そんな青年を、橙色が優しく照らしていた。
〜Fin〜