Short Story

□ホッカイロ
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そのままボーっとしている私に振り向いて一言。



『送ってく。早く来いよ』



『そっ、そんな…悪いよ!!』



『…風邪気味の奴ほっとけるかよ。途中で倒れたらどうすんだ』




全然風邪気味じゃないのに…なんて思ったけど。照れ臭そうにそうに言う姿に、全部理解した。




(そっか…顔に出ちゃってたんだ…)




風邪は口実。
本当は寂しげな表情を見たから。



嘘さえも優しさ故に。
私を寂しくさせない為なんだね。




(有難う、黒崎くん…)




『うん…!!』



笑顔で駆け出せば、さっきまでの寂しい気持ちも嘘のようで




『あっ…初雪…!?き、綺麗だね、黒崎くん!!』




『おー、どうりで寒い訳だなー』




大好きな人と帰る私は、本当に幸せ者で。



どうしよう…もしかして一生分の幸せを使い果たしてるのかもしれない。



黒崎くんは魔法使いだね、なんて小声で言ってみた。
本人はなんだよそれ?って苦笑いを浮かべたけれど。




本当だよ?





黒崎くんの一言でこの寂しい気持ちもどこかに消えたし、幸せな気分になって体以上に心が温かくなった。




私にとって、貴方は心を温かくしてくれる人。




『じゃあ、黒崎くんはホッカイロ…かなぁ?』



『だからなんでだよ?』



『えっと…、ホッカイロだから』



『それ答えになってねーぞ井上』




有難う黒崎くん。おかげで全然寒くないよ。




寒ィから急ぐぞ、と急かされて走り出した足はとても軽く




見上げた空は灰色なのに何故か綺麗で




どうしようもなく嬉しくて幸せで、困る…なんて贅沢な悩み。





(顔がニヤけてたらどうしよう…)






一段と冷え込んだ日には



空から零れる粉砂糖の中、大好きな人と二人。












〜Fin〜


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