頂き物・捧げ物等

□拍手文
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バレンタイン(市砕ver.)



2月。女子だけならず男子までもが色めき立つこの季節。女性死神協会でもその話題で持ち切りだった。





『そういやもうすぐバレンタインよねぇ〜。あ、砕蜂隊長は誰かにチョコレートあげるんですか?』



『…何の話だ』




『ばれんたいん』…あまりこちらでは聞き慣れない単語だ。
誰が流行らせたのかは解らないが、現世のイベントが何故かこちらでも行われているらしい。




そもそも隠密機動というはピリピリした場に所属している砕蜂には縁のない言葉だった。



乱菊の話では、どうやら女子が好意を持つ人に気持ちを込めてチョコを贈る日らしい。



私には関係のない事だ、と黙り込む。だが、何故だろう。




好きな人と言われてふいに脳裏を過ぎったのは、あの張り付いたような笑み。




(…下らぬ…)




あの男…市丸がいつの間にか自分の脳裏に居た事に驚いて、その顔を即座に掻き消した。




だいたいあの男にはくれてやる義理もない。あげた場合、奴は間違いなく調子に乗るだろう。





それに現世のイベントを浮かれてやる程、自分は子供でもない筈なのだが…




なんて考えるものの、奴の喜ぶ顔がふと目に浮かび、思わず苦笑せずにはいられなかった。





* * * * * *




――当日。
大前田がたくさんの紙袋を抱えて執務室に現れた。甘い香りが嫌に鼻をついて、砕蜂は思わず顔をしかめる。





『何だそれは』




『何って今日バレンタインじゃないスか。俺モテるんで、部下からたくさん貰うんスよ』




――全く、見栄張りが思い付きそうな嘘だ。恐らく大半は義理だろう。
しかも半分は菓子店で自分で購入したことがバレバレだ。



その嘘は特に気に留めず、書類に目を通すのは真面目な性格故。だが問題は他にあるのだ。



書類整理の手を動かしつつ、砕蜂は怪訝そうに大前田を見つめた。




『貴様…仕事を何だと思っている?そんな事にうつつを抜かす等…』



『まァまァ。ホラ、隊長にも何個かおすそ分けしますから。イライラには甘いモンが良いらしいッスよ』



『おい、話を…』




大前田は2、3個小さなチョコを砕蜂の机に置き、『書類届けてきまーす』と出て行ってしまった。




つくづく勝手な男だ。帰って来たら一発喝を入れてやるとしよう。



そんな事を考えながら、飴玉のような大きさのチョコレートを手に取ってみる。




『…甘い』




口に入れれば甘い香りと共にすぐに溶けてしまうそれは、確かに甘いものの、不思議と嫌悪感はなかった。




(――このぐらいの大きさなら、)




いつの間にか陽の傾いた窓の外を眺めながら、自分を落ち着かせるように深呼吸を一つ。



誤解するな、特別な理由はない。
何度もそう心の中で自分に言い聞かせるように呟いて、執務室をあとにした。





『どないしたん?二番隊長さん。こないな時間に』



『へ、変な誤解はするな。特に深い意味は…』



『あららァ、顔真っ赤。熱でもあるん?』



『……っ!』




(可愛え反応やなァ…)





好き


こんな会話が聞こえてくるのは、もう少しあとの話。




〜Fin〜






チョコの大きさよりも、気持ち。


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