頂き物・捧げ物等

□拍手文
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だからね、知らなかったの。




こんなに楽しい行事だってことを。




『あ、おかえりなさ〜い!』



『お、おう…』



『こ、こんにちは〜』



『あれ?織姫ちゃんじゃん。へぇ〜…一兄も中々やるね…』




今あたしは、黒崎くんの家に来ている。



どうしてそんなことになったのか。それは、ほんの数分前。



黒崎くんと、学校の帰り道を歩いていた時のこと。



『そういえば、もうすぐひな祭りだね』



『あァ、もうそんな時期だっけか…そういや遊子なんかが準備してたな』



『へぇ〜そうなんだ!良いなぁ…』



ワイワイ騒ぎながら過ごすひな祭りは、本当に楽しそう。



ちょっとだけ、黒崎くんが羨ましい。




『…見に来るか?』



『えっ…!?』



『いや…アイツらも喜ぶだろうなって思ってさ』



それに井上、お前もそういうの好きだろ?



そう言って柔らかく笑った表情はとても優しくて、珍しくて。



驚いて思わずじーっと見つめてしまった。



あたしの視線に気付いた黒崎くんは、照れ臭そうに眉間に皺を寄せる(あ、いつもの表情だ)。




『俺の顔になんか付いてるか?』




『あ、ううん!全然大丈夫!ゴミ一つ付いてないから』



『じゃあ何だよ?』



『黒崎くんがそういう顔するの、珍しいなぁ〜って』


『なるほどな…つーか、あんまりじっと見ないでくれるか?なんつーか、こう…』


『あ…ご、ごめんね…!でも…良いの?あたしなんかが行って…』


『いーよ別に。遠慮すんな』



そしてそのまま冒頭に戻る訳だ。



『わぁ…!綺麗なお雛様…!』


『でしょ?あ、織姫ちゃんちょっと手伝ってくれる?』


『うん!』



ひな祭りの準備をしている三人の姿はなんとも微笑ましい。本当に楽しそうだ。



こうして見ていると本当の姉妹のよう。



(連れて来てよかったな…)




『一護…どういう口実か解らんが織姫ちゃんを連れ込むとはでかした!あとはどう接近戦に持ち込むかが…『うるせェよ』



いつの間にやら自分の背後に現れたヒゲの頭にチョップ。



さっきまでの微笑ましい空気が台なしだろうが。何が接近戦だ。



見事にチョップを食らった親父が転がり回っているのを軽く無視して視線を戻した(こういう奴は相手にすると付け上がる)





『やったあ完成!!』




『手伝ってくれてありがとね、織姫ちゃん』




『いえいえ、どう致しまして。あっ、黒崎くん!お雛様全部飾れたよー!』




『おー』




元気に手を振って全身で喜びを表す(これを無邪気と言わずに何と言おうか)織姫に、軽く手を振って答えた。




『結構いい感じだな』





中々見事に飾られている。元々立派なひな人形だけあって、見応えは充分。



その場に居る誰もが、ひな人形に見とれていた。―――ただ1人を除いては。




『ぐわぁぁぁぁ!!つ、遂にひな人形がその姿を…!あぁ、俺はもうダメだーー!』




『あっ、お父さん!!』



相変わらずハイテンションなリアクションをするのは、黒崎家の大黒柱、一心である。



大袈裟なことを言いながら母・真咲の遺影に縋り付いたのだ。



…まぁ、毎年恒例の行動なのだが。




『ったく…』




『ど、どうしちゃったの?』




『あぁ、アレは気にしないでいーよ。いつもああだから。毎年ひな祭りの時期になると、人形を飾らせないように邪魔してくるんだよあのヒゲ親父』



『そ、そうなんだ…』




一心のほうに目を向けると、遊子に縋り付きながらなにやら訴えている。



『結婚して父さんと離ればなれになるぞ!?それでもいいのか!?』



『そっちのほうが清々するわ!つーか毎年毎年邪魔しやがって…一生結婚させない気かこのヒゲ!!』



『もう…夏梨ちゃんもお父さんもやめなさい!お客さんが居るんだからね!?』



娘のキックを食らった父が「遊子…夏梨が冷たい…!」と抱き付こうとすれば、それは夏梨によって阻止される。



黒崎家のひな祭りは、中々バイオレンスだ。




『…なんか、悪いな…騒がしくて』



『ううん。楽しい家族だね』



『…そーか?』



『うん!…あたしの家は…騒ぎたくても騒がしくなんて出来ないから…』



段々と声が小さくなる。その様子を、決して見逃しはしなかった。




『当日も来いよ』








桃の節句に会いましょう







『えっ!??』



『井上だって手伝ったんだし権利はあるだろ。…嫌ならいいけど』



『い、行きます!』






〜Fin〜


きっと幸せなひな祭り


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