頂き物・捧げ物等
□拍手文
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『あ、お妙さーーん!!』
ドカッ
街中で見掛けた愛しい人に、笑顔で駆け出した直後の音がこれだ。
『あら、近藤さん』
"近藤"と呼ばれたその男は、涼しげな笑顔を浮かべた彼女の拳を食らい、綺麗な曲線を描きながら地面に落下した。
地面にやや減り込んだ男に、冷ややかな視線を向けながら青筋を増やすのは、まあ仕方のない事だろう。
『ったく、さも今日初めて貴女に会いましたみたいな風に話し掛けてんじゃねーよゴリラ。あ?今日会うの何回目か言ってみろコルァ』
『さ、3回目です…これはもう偶然というより運命で…ぶふぅッ!!』
『テメェがストーカーしてるからじゃボケェ!!』
そう、本日はこのストーカーに会うのはこれが3回目。流石に3回ともなると、いつもよりも穏やかに接するなんて無理があるし(まぁ普段もそんなに変わらないが)、白々しいにも程がある。
いつもの倍ぐらい苛ついて、運命だなんだと言い出したゴリラの頭を踏ん付けてやった。
『いやいや、これは運命ですよお妙さんッ!誰かさんも言ってますよ、この世に偶然なんてない、あるのは必然だけだって』
しぶとさが売りなのか、何度殴られても、蹴り飛ばされても。それでも何度でも立ち上がってくるのはこのストーカー・ゴリラ。このしぶとさを他の所に使えばいいのに、と思うのはきっとお妙だけじゃないハズだ(だからこそこっちも手加減しないで殴れるのだけれど)
『あら、貴方がストーカーしてるのは偶然だって言いたいのかしら?』
『違います!!俺は貴女のピーター・パンなんで!』
『そんなピーターお断りよ』
これ以上この人に絡むと面倒な事になりかねない。ゴリラには悪いが、ここは早々に立ち去ったほうが無難だ。
うーん…と何やら困った表情を浮かべた近藤に「急いでいるので」と適当に言い訳をして踵を返し、反対方向に一歩進んだ時。
『お妙さん!!』
いつもとは違う雰囲気の声が、背中に掛かった。
真剣でやけに強い声色、強い意思を感じる声。
(近藤さん…?)
どこか違和感を覚えて、思わず振り向く(だって彼は私に話し掛ける時は大抵照れていて、声色は降り注ぐ陽射しのように温かくてどこまでも優しかったから)
振り向くと、そこには予想通り、真剣さを帯びた瞳。
『お妙さん、もし勘違いをさせたなら済みません。でも俺は本気なんです。……絶対、偶然にお妙さんをストーカーしてる訳じゃないし、お妙さん以外にはしません』
いつもとは違うその真剣な眼差しに、その言葉に、思わず目を見開いた。
『追い掛けてるのは偶然じゃなくて、お妙さんが好きだから…お妙さんだから俺は…』
『テメェ自身でストーカー犯行認めてんじゃねェかァァ!!』
『ぶるぁぁぁッ!!!』
近藤勲、愛しき人の拳で再び宙を綺麗に舞った。
パンパンと手を叩きながら、今度こそ気絶した近藤を見つめる。
(…何よ、ゴリラの分際で…)
思い切り奴をキッと睨みつけてやる。だってさっきの真剣な言葉は狡い。だって不覚にも、ほんの一瞬だけ―――
純情な野獣!
(ときめいた、なんて絶対言えないわ)
睨みつける彼女の頬が僅かに赤く色づいていたのは、彼女だけが知る秘密。
Fin