頂き物・捧げ物等

□拍手文
22ページ/27ページ

(高誕)


ゆらり、と。
雲から顔を出す月。

水面に写った満月に、酷く恋焦がれた。




待ちに待った今日この日。崇拝に近い程に憧れ、尊敬した我が道標。この世界を憎み、忌み嫌う彼。"高杉晋助"の生まれ堕ちた日。




「俺と一緒に世の中をひっくり返さねぇか」




初めて逢ったあの日。
あの危うさを感じる瞳に、雰囲気に。電流が身体を走り熱を帯びた。




(なんて、人)




そう、見た瞬間に。既に私の心は捕らえられていたのだ。


あの恐怖を覚える程に強い意志を持った瞳に、強烈に惹かれた。




どんなに恋焦がれようと。


どんなに敬愛しようと。



決して振り向きはしないあの人に着いて行こうと決めたのは私。彼が前だけ見ていられるようにするのが私の仕事だろう。



そう、例えるならば。それは水面に写る月。
それを欲し、いくら水面に触れようと決して届きはしないのだ。



「晋助様」




緩やかな波をうってはゆっくりと漆黒へ吸い込まれる紫煙。月明かりに照らされた姿は妖艶で、神秘的で。すぐ側に居るというのにひどく遠くに感じられた。



何者も寄せ付けず、恐怖を感じるくらい貪欲な野心。まるで触れてはならない聖域のような。






「皮肉なモンだ」





唐突に発せられた声。クク、と特有の笑い方。何が皮肉なのか、なんて。悟ったが何も言えない。黙り込んでいると、獣はまた喉を鳴らして笑う。





「世の中が 世界が憎くて壊したいと思ってる俺が、生まれ堕ちた日なんてな」





憎い憎いと思う世界に皮肉にも生まれた。此処に存在するという事実。それでもかつては今ほど忌み嫌ってはいなかった。






(この世界に在ったからこそあの人に出逢えたのだから)






だからこそ裏切り簡単に切り捨て、自分達を置いて微動だにせず廻る世界。平和ボケしている世界が。





世の中が 幕府が 憎い






「でも私は、晋助様に出逢えてよかったっス」






その言葉は届いたのか、届いてはいないのか。
獣は答えなかった。振り向きもせずに月だけ見上げ紫煙をふかす男は。






「良い満月だなァ」






そう一言呟いて、ゆっくりと瞼を閉じた。




それは狂気にも似て





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ