頂き物・捧げ物等
□氷イチゴとブルーハワイ
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ジーワ ジーワ
引っきりなしに蝉が鳴いている。
こんなに暑くて、喉も焼けるように渇いているってのに、馬鹿の一つ覚えのように剣(私は傘だけど)を交える私達。
…もしかして。
いや、もしかしなくても馬鹿なんだろう。もういい加減暑くて死にそうだ。
暑いと呟いて、ドカッとベンチに座る。それが休憩の合図だ。なんだか不服そうな顔をして刀を鞘に収め、栗色の少年も隣に座った。
ああ今日はこんなにも暑いのに!!神サマはもの凄く意地悪だ。だって風さえも吹きゃしない。
それに元々陽射し陽の光りに弱い私だから、いつものように長時間戦うのは無理だ。そろそろ限界(…まぁ相手が相手なだけに、ギブアップなんて絶対口にはしないのだけれど)
『オイ』
『…何ヨ』
『ちょっとこっち』
『…あ、オイ!!』
いきなり呼ばれたかと思えば、腕を引っ張られる。…なんなんだコイツは。
私は"オイ"なんて名前じゃないし、そんなに強く引っ張ったら痛いじゃないか!!
怪訝そうな顔で見上げてみるも、コイツは前を向いたまま(なんでそんな真剣なんだヨ)
大体腕とか、こんな簡単に触んじゃねーヨ。後で酢昆布でもせびってやろうか。
『オイ、お前いい加減に──…』
『…着いた』
いきなり立ち止まるものだから、思いきり奴の背中に鼻をぶつけた。コイツは私をどれだけ怒らせれば気が済むのか。
ただでさえ暑いのに余計イライラするが、言ってやらないで沖田が見る先を見つめた(ああ、私って大人だ!)
ぱしゃ さらさら
なんとも涼しい水の音色だ。奴の先にはいつもの駄菓子屋。その店の外には水で冷やされているラムネ達。
先程まで感じていたイライラも、暑さも、どこかへ吹き飛んだ気がした。
『何ボーッと突っ立ってるんでィ。とっとと座れ』
『言われなくても座ってやるネ。ラムネ奢れ』
『さりげなくせびるんじゃねーや』
そんな事を言い合いながら奴は私を座らせる(後で覚えとけ!)と、外でキンキンに冷やされていたラムネを2本お会計(結局奢ってくれるんじゃねーか)
私は外のベンチで奴の帰りを待ちながら、静かに蝉の鳴き声を聴いていた。
『オラ、』
『むおっ!!』
頬には独特の冷たさ。ハッと見上げればそこにはドS少年。脇にはもう1本のラムネと、持っているお盆には───
『かき氷!!』
『見りゃ解るだろィ?テメーはイチゴな』
『くれるアルか?』
『さーどうだか』
なんて言いつつ、氷イチゴは迷う事なく私に手渡された。…素直じゃないなホント。
氷イチゴの鮮やかな赤。私の着ているチャイナ服もまた、その色で。
ジリジリと陽が肌を焦がすのも忘れて、一口、また一口。
急ぎ過ぎたのか、キーンと頭が痛くなったが、これもまたかき氷ならでは。
牛乳なんかを使ったアイスと比べてさっぱりしているし、こういう日にはこれが合っているのかもしれない。
『っく〜!美味いアル!』
『テメーは親父か』
ぶつくさ隣で呟く奴は軽くスルーし、シャクシャクと氷の山を崩して口へと運ぶ。
『そういえば、どういう風の吹き回しアルか?お前がラムネとかき氷奢るなんて。いきなりこんな事しても何も出ないアルヨ』
『別にそんなんじゃねぇや。黙って食え』
『…なんか裏があるんじゃねーだろうナ』
『うっわ、ひでー。こんな美青年が奢ってやってんだから文句言うんじゃねーよ。んな事言ってっと、全部食っちまうぜィ?』
『……まあ良いアル。つーか美少年てどの口が言ってんだヨ。百歩譲っても腹黒少年だろーが』
『そんなにガラスの剣な奴虐めて楽しい?生憎俺は虐められんのは趣味じゃねーや』
『こっちもそんな趣味ねーヨ』
シャクシャクシャク。
口喧嘩もそこそこに、一気に平らげて痛みに頭を叩く。氷イチゴは喉を通り過ぎるとすぐにスウッと消えてしまう(なんだか不思議な感覚だ)
(変な奴ネ、シャイボーイか?)
口の中の甘さと冷たさの余韻に浸りながらふと隣を見ると、奴の手には見慣れない青。
その青いかき氷は見た事がなく、物珍しさに少年の整った横顔を見上げた。
『オイ、サド。お前のやつは青いアルな』
『ああ。良いだろ?ブルーハワイって言うんだぜィ』
『フーン』
随分と洒落た名前だ。見た目が青い事から、イチゴの味じゃないのは予想が付いたが…どうにも名前からは味の予想は付かなかった。
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