頂き物・捧げ物等
□夕暮れハッピーソング
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いつもの朝、いつもの日常。起きて朝食の用意をする。
だけどいつもと違うのは、しばらく居ないあの元気な声が聞こえないだけ。
「朝よ、起きなさい」
出来るだけ優しい声で、そっと布団をめくる。
するといつものように少しだけ身震いして、その小さな瞳が母の姿を捉らえた。
「おはようございます、母上」
ごしごし、とまだ眠たそうに目を擦る姿がひどくあの人に似ていて。ああ、やっぱり親子なんだなと思わず微笑む
(あの人は大きい子供のようで。確かにいつも子供みたいな仕草をしていたから)
息子を着替えさせた後。いざ朝食の準備を再開しようとすると、酷く慌てた様子の黒髪。
いつものように眼鏡をかけて、勢い良く現れた弟。どうやら、うっかり寝坊をしたようだ。
あら、今日は私が朝食を作ろうと思ったのに(朝食はいつも、新ちゃんが作ってくれている)
そう言えば、ひどく青ざめた顔で「あの子を殺す気ですか」なんて真面目な声で言ってのけたから、顔面に1発パンチを喰らわせてやった。
(その後じょ、冗談です…姉上は大変なんですから僕に任せて下さい!と台所を追い出された)
全く、自慢の弟ながら困ったものだ。朝食ぐらい私にだって出来る(今日の献立は迷う事なく定番の玉子焼きだったが)
もちろん心配してくれるのは嬉しいのだが、自分としては複雑だった。
自分はこの家の妻であり、母でもあるのだ。普段は忙しさの為にやって貰っているが、たまには。
休みの日ぐらいは母らしくありたかったのが本音なのだが。
「母上、どうしたの?」
着物の裾を引っ張りながら、具合が悪いの?と心配そうに続ける息子にハッとして、優しく頭を撫でた。
本当にこの子は、あの人に似ている。
自分の性格上、中々表に出さない弱さに、気持ちの揺らぎに。子供は敏感に気付くのだ。
(本当に…似てるわね)
外見こそ母の自分に(というより弟の新ちゃんに)面影があるが、内面は…。
うるさいぐらい元気で、馬鹿で、でも誰よりも優しくて自分で決めた武士道を貫く不器用な───…
「有難う、大丈夫よ」
「ホント?よかった…!」
"うるさい"と"バカ"はこの子にはないけれど(だって当たり前だわ。私の子でもあるんだから)
でも柔らかく微笑んだこの子と、ここしばらく会っていないあの人への愛しさが募ったのは本当の事だ。
新八が作った朝食を食べた後は子供の面倒は彼に任せて、日課の洗濯物を干す為カゴを取り出した。
パンッ!
洗われてスッカリ真っ白くなった洗濯物の皺を伸ばす作業。
ほのかな洗剤の香りと太陽の匂いに包まれて、ふと空を見上げてみる。
(すごく大きい雲…!)
暑さに額から流れる汗を拭いながら、だがお妙は洗濯が好きだった。
綺麗に汚れが落ちた物に囲まれると、こっちも心が洗われるようだ。
(特に今日みたいな良いお天気の日は本当に気持ちが良いわ)
実に清々しい気分で、一つ深呼吸。太陽の匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。
「ははうえー」
奥の部屋から自分を呼ぶ声が聞こえて、夫の求婚当初とは比べものにもならない穏やかさで、なあに?と返事を返す。
そしてそのまま声のするほうへと足を向けた。
* * * * *
夫の長期出張は、夫の役職上仕方のない事だった。例えあんなゴリラでも、武装警察真撰組の局長という地位についているのだ。
今までも何度か出張はあったものの、どれも短期であり、これほどまでに長期に渡るものは初めてだった。
長い出張になるからこそそれなりに不安はあったが、自分は母であり真撰組局長の妻なのだ。
支える立場の人間だからこそ、不安にさせないように堂々と送り出さねばならない(だから不安な表情は一切出さずに夫を送り出した)
周りはなんと肝の据わった人なんだ、と。強い人だとそんな自分を見て言っていた。
…いた、けれど。
そう思っても、平気な顔で送り出しても、毎日どんなに電話があっても。
心の奥底にある不安が薄れる事はなく、日に日に強くなるばかり。
(私を強い、なんて言うけれど、本当はそんな出来た人間じゃないの。本当は弱い癖にそれを相手に見せられない、強がっているだけのただの臆病な人間)
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