頂き物・捧げ物等
□夕暮れハッピーソング
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(ねぇ、本当は不安で。貴方の事が心配で、電話の声じゃダメで、押し潰されそうなの)
(だから早く、帰って来て)
(あの眩しいぐらいの笑顔を私に見せて、あのうるさいぐらい愛を囁く優しい声を聞かせて、)
(安心させて欲しいの)
洗濯物が済んだあと、新ちゃんはいつものように万事屋へと向かった。
今日は向こうに泊まるのかもしれないし、夜まで帰らないかもしれない。
久しぶりに大きな仕事が入ったのか、機嫌がよさ気にそう言った後にハッと何かに気付いてシュンと肩を落とした。
「済みません…姉上。こんな時に僕まで家を空けるかもしれないなんて…」
「あら、大丈夫よ新ちゃん。もう私だって子供じゃないんだし…それに一人じゃないし」
「…済みません」
大丈夫だからと笑顔で言ったものの、やっぱり申し訳なさそうにしていて。そしてせめてこれだけは、と今日の昼食と夕食の用意をしていってくれた。
今日はもしかしたら、家でずっと息子と二人きり。
新八にはああ言ったものの、なんだか静かになるのが嫌で。
静かになる家に居たくなくて。
「ねぇ、もうちょっとしたら公園にでも行きましょうか」
「えっ、本当!?やったぁ!!」
「フフ、じゃあ早く食べて準備しなくちゃね」
「はあーい!!」
ニコニコしながらご飯を頬張る様子を微笑ましく思って、頬杖をついて見つめる。
ずっと見つめていたら、恥ずかしそうに目線を反らしたものだから、愛しくて愛しくてほんのり色づいた頬を軽く突いてやった。
* * * * *
公園に着くと、近所に住んでいる子供達もたくさん遊んでいて。友達が居たのか嬉しそうに勢いよく公園へと駆け出した息子の後を追う。
ちょうど空いていたベンチに座ると楽しそうに走り回る子供達を見つめて目を細めた。
あの人はよく、公園に居る子供達と遊んでいたように思う。
ゴリラが居たら、喜んで遊んでたわね、なんて。夫の姿を思い出してクスリと笑った(あら、いやだわ私ったら。今日はあの人の事ばかり考えてる)
居る時も居ない時も、私の頭から離れないなんて生意気なゴリラだわ。帰って来たら一発殴ってやらなくちゃ。
そしてまた視線を子供に戻そうとした時、視線の端に漆黒の隊服が映り込んだのが解った。
(───もしかして、)
ポツリ、と。
胸の中に浮かんだ淡い期待。でもまだあの人が帰るのはあと一週間も先。
期待したらダメだ。でも…と自問自答を繰り返してなんとか気持ちを落ち着かせ、ゆっくりと振り向いた。
───振り向いた先には、目付きの悪いニコチン中毒者。
「あら土方さん。公園に来るなんて珍しいですね、どうしたんです?」
その後にチッ、紛らわしいんだよと小さく聞こえた気がして、思わず固まる。
いつもの笑顔が3割増し。笑顔を浮かべているくせに周りの空気が冷えたように感じるのは何故か。言い方にトゲがあるように感じるのは何故か。
彼女と結構長い付き合いの土方が、気付かないハズはなかった。
(…ヤベェ、殺される)
柄にもなく命の危機を感じた鬼の副長は、その場をなんとかしなければと頭をフル回転。必死に言い訳(に近い)の言葉を探すのだった。
「巡回のついでだ。期待させちまったんなら悪かった」
「あら、私が何を期待したって言うのかしら?変な誤解しないで下さい」
ああ、やっとのことで絞り出した言葉だったというのにこれだ。
やばい思いっ切り地雷ゾーン踏んだ。今日は温かいハズなのに冷や汗はかくし、口にくわえてるハズの煙草は味がしやしねェ。
自分の大将が選んだ伴侶とはいえ、どうにもこういう空気は苦手だ。
この気まずい雰囲気をなんとかしようと、またあーでもないこーでもないと考えを巡らせた時、
「ははうえーー!」
その声に顔を上げれば、楽しそうに、嬉しそうにこちらに手を振る子供の姿。
あの無邪気な笑顔に出張中の大将の笑顔が被って見えて。
先程まであんなに力んでいたのに全身の力が一気に抜けた。
(近藤さん、やっぱりアンタ似だよ)
子供とは良いものだと柄にもなく思う。あの笑顔を向けられたらいやでも場が和むってモンだ。
苦笑いして吸いかけの煙草を備え付けの灰皿へ。グリグリと押し付けて火を消してから、自分の息子に手を振る母にもう一度声を掛けた。
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