頂き物・捧げ物等
□唐辛子パニック!
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「ご覧下さい、店内は男性客が八割を占めて──おおっと、よく見てみるとほとんどが真撰組の隊士の方のようです!話を伺ってみましょう。──甘味処に来るようになったきっかけは?」
「…疲れた時は甘いモンだろ」
「なるほど、確かにそうですね。連日の勤務に、真撰組もお疲れのようです。さぁ真撰組以外の他の男性客にも伺ってみましょう。──あなたにとって甘味とは?」
「命です」
「ちなみにその白髪は、やはり過労のせいで?」
「コレは銀髪だっつーのォ!生まれつきなんだよ生・ま・れ・つ・き!」
「ありがとうございました。というわけで、このように最近は──」
にこやかな花野アナの映像と共に全国に放送されたこの番組のお陰で、甘味で疲れを癒す『働く江戸のおまわりさん』というイメージが更に高まった。
そして真撰組は、国中を巻き込む一大ブームを生み出してしまうことになる。
「では紹介しましょう!誠ちゃんに次ぐ我々真撰組の新マスコットキャラクター、たらこちゃんです!」
意気揚々とそう告げた局長の後ろから出て来たのは、以前よりも更に哀愁を帯びた──タラコ唇の半馬半人。
「やっちゃったな〜オイやっち
ゃったよ〜…こんなに腫れちまった…」
心底悔いるように顔を覆ったたらこちゃんの背中には、大量の唐辛子を握り締めた死体が乗っている。
「あのときやめてればなァ〜…まさかパフェにタバスコかけられるなんて思わなかったものな〜…」
たらこちゃんがひたすら陰欝に喋る間に、死体が唐辛子を一つ、つまみ食いした。あまりの辛さに声も出ない死体は、勝手にたらこちゃんの背中から飛び降りてのたうちまわる。
「う゛う゛う゛〜…う゛う゛う゛う゛う゛〜〜…」
「ちょっとォォ!死体!死体生き返ってるよォォ!?死体メッチャ苦しんでるんだけどォ!!」
「やっちゃったな〜オイやっちゃったよ〜…死体もタラコ唇かァ〜…」
「たらこちゃんん!?ちょっ、あのスイマセン、休憩入れますんでェ!たらこちゃんバック!バックトゥーザフューチャー!!」
局長の必死のフォローで控え室に戻ったたらこちゃんは、すぐさま水をコップに注いで死体に手渡してやった。
同時にがぱりとたらこちゃんの下半身から眼鏡の少年が出て来て、上半身と少年を一喝する。
「まったくもう、一体なんなんですか!?僕全く状況がわから──って、アンタらなに二人し
てたらこってんですかァア!!?」
「好きでたらこったんじゃないネ!あの赤いヤツのせいヨ!ちょっとかじっただけなのにこんなに腫れちまったアル!!」
「唐辛子つまむバカがどこにいるんだよォォ!」
「うっせーぞ新八ィ。俺達ゃ今たらこちゃんだ。身も心もたらこちゃんになんだよ。死体だってたらこでいーだろーが」
「つーままず死体いらないから!誠ちゃんを原型にする意味がわからないんですけど!」
「いーから黙ってオメーも唐辛子食え。たらこちゃんにたらこじゃねー奴はいらねェ」
「どんな理屈だよ!?」
「新八ィ!万事屋はどんなときも一心同体ネ!よってお前もたらこるヨロシ!」
「いやだぁぁあああ」
下半身もたらこを装備したたらこちゃん(※深い意味はありません)は何故か瞬く間に大人気になり、その人気に相乗した『たらこちゃんパトロール』では、犯罪率を大幅に下げるという快挙を成し遂げた。
たらこちゃんのその悲哀に満ちた表情は、国民に「俺のこの不幸なんてたらこちゃんの背負ったものに比べれば…!」というポジティブ旋風を巻き起こし、更にたらこブームが促進。
もはや真選組とたらこは、切っても切れない関係になっていた
。
「…これを利用しない手はねぇな」
真選組屯所内。定時集会にて、鬼の副長・土方十四郎はそう呟き――その腫れ上がった唇に煙草をくわえた。
「利用って、どういう意味ですかィ土方さん」
同じく腫れ上がった唇を開き、一番隊隊長・沖田総悟はいつも通りの険を孕んだ視線を土方に向ける。
隊内で最も強大なたらこ唇を持つ者として、二人は隊士達からこれまで以上の尊敬と畏怖の眼差しを受けていた。
あの女将の料理を毎日おかわりするなんて…!
隊士達の驚きは日々増していく一方だが、誰よりも女将を愛している二人にとって、それは何ほどの苦労でもない。
きりりとした表情で、土方は続けた。
「利用っつーのは、今の真撰組ならではの新兵器開発にだ。俺達をナメくさった攘夷浪士共に、一泡吹かせてやるんだよ」
「新兵器開発?トシ、何か案があるのか!?」
「ああ。タラコ警察とやらの意地、見せてやろうじゃねーか」
分厚い唇の端をニッと上げて、土方は不敵に笑んだ。端から見ればあまり格好良くないその顔も、もはやたらこ唇の巣窟となった真撰組の士気を上げるには充分だった。
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