頂き物・捧げ物等

□机上のマトリョーシカ
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こてん、と投げ付けられたのは、珍しいことに消しゴムのカスではなかった。些か重量を持ったそれは、小さなキャンディーの袋。反射的に左隣を見れば、投げた張本人がちょうど神楽の手元にあるのと同じ包みのキャンディーを、ぱくりと口に入れたところだった。



「…何アルか、コレ」


「見てわかんねーのかィ。飴でさァ」


「そういうこと聞いてるんじゃないネ。何でお前が私に飴なんか恵んでくれるのヨ」



半ば睨むように問い質すのは、偏に日頃の行い故だ。銀魂高校の破壊神である二人は犬猿の仲で、間違ってもこの男がタダで飴をくれるほど親切ではないことを神楽は知っている。


半信半疑な神楽の表情を見て、沖田はふっと不敵な笑みを浮かべた。先程口に放り込んだ飴をもごもごさせながら、神楽の机脇にぶら下がっている鞄を指差す。



「聞こえてねェとでも思ってたのかィ、ぐーぐー鳴ってるテメーの腹の音。朝に早弁なんかすっからだぜィ」



からかうような沖田の声音に、神楽はむっと眉間に皺を寄せた。確かに早弁したせいで、鞄の中の弁当箱はすっからかんだ。

だけど仕方がないではないか、登校中だろうが授業中だろうが、お腹が減るときは減るのだ。


「別にいいダロ。私の早弁で誰かに迷惑かけてるわけじゃないアル」

「いや、すげー迷惑してっから。テメーの腹の音は公害でさァ」

「そんなに大きい音鳴ってないアル!」


ばん!机の上を勢いよく叩いた直後、神楽のお腹が唸った。何だか物凄くお腹が空いてそうな音だった。3Zの教室が一瞬、妙な空気で静まり返る。



「ほら見ろ。みんなテメーの腹の音にびびっちまってんじゃねーかィ」

「ち、違うアル!今のはお腹が空いて鳴った音じゃなくて下痢の──」

「尚更公害モンだろィ」

「ううううるさいネ!もうこれも全てお前のせいアルこんちくしょー」

「何でだよ。…いーからソレ、食いなせェ。腹の足しにはなるぜィ」



言われて神楽は先程の飴をじっと見つめた。次いで未だにもごもごと飴を舐め続けている沖田に視線を移す。数秒考えた後、こくりと心の中で頷いて、ひとつの結論を出した。

常日頃から仕掛けられる嫌がらせを鑑みて、沖田憎しと言えども──。



(飴に罪はないアル!)



『タダより怖いものはない』とかいう言葉が一瞬頭をよぎった
が、神楽はこの際無視することにした。代わりに『据え膳食わぬは女の恥』とかいう言葉を引っ張り出す。なんかちょっともともとの言葉て違っているような気もしたが、神楽は頓着しなかった。


「じゃーありがたくいただくアル。私の公害防ぎたいなら最低あと五個は献上するヨロシ」

「そーいうのを厚かましいって言うんでさァ。一個で感謝しときなせェ」

「恥を忍んで私の腹の音が公害になるって認めてやったのヨ。公害問題の収束のためなら飴の五個や六個や十個や百個、安いもんダロ」


「どこまで増やすつもりでィこのクソチャイナ。開き直んな」


ぺしっと神楽にデコピンをして、沖田は携帯に意識を移してしまった。何やら楽しげに画面を見つめている様子からして、どうやらまた土方への悪戯を仕掛けているらしい。
とことん歪んだ性格ネ、と内心呆れながら、神楽は飴の両端を引っ張って、かさりと包みを開いた。


(…?)



しかし中に入っていたのは飴ではなかった。包みを開いた中にあったのは、また更に違うキャンディーの包み。



(こ…こんにゃろぉ〜〜)


それはまるで小学生のイタズラのようだった。お菓子の包みの中に入っている包み。その包みを開けて
もまた中には包み。そうやって幾つもの包みを開けていって、ようやくたどり着いた最後の包みの中身は結局空っぽなのだ。


(私をおちょくったアルな!)


忿懣たる思いでキッと左隣を睨むと、沖田はまだ携帯の画面に夢中だった。反応を見て楽しむつもりもないのかこの男は!と心の中で罵倒して、いやその文句もおかしいか、と打ち消すように頭を振る。

とにかく、これは挑戦状と同等だ。売られた喧嘩は買ってやる。ぐっと拳を握り締めたとき、神楽の腹がまた呻き声をあげた。


「何でィ、チャイナうるせーな。今飴やったばっかだろィ。ちったぁー静かにしてなせェ」

「どの口がそんなこと言ってるアルか!?お前こんなふざけた小細工しといていけしゃあしゃあと!食い物の恨みは怖いアルヨ!!」

「は?小細工って…オメー最後まで包み開けたのかィ?」

「開けなくてもわかるわあんなモン!!どーせ中身カラッポなんダロ!最後まで確認するほど馬鹿じゃないネ!!」

「なんだ。見てねーのかィ」

「私が騙されると思ったら大間違いヨ!いーからさっさと本物の飴よこすアル!」




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