頂き物・捧げ物等

□また逢うとき
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夢の中にいるような感じがした。



空も景色も地面も全てがフワフワしてて。

ここはどこだろう。
どこでもいいけど。





(ああ死ぬのか。)





なんとなくそう思いついた時、

遠くからクスクスと笑う、懐かしくて愛しい声がした。







また逢うとき







『こんな処で何をしているんですか?』




声の主の姿は見えない。

けれど、その声が誰のものかだなんて聞き返すまでもなかった。

それよりも聞きたいのは


「お前こそ何をしているんだ?こんな処で。」




‥また、笑う声がした。




『貴方を追い返しに来たんですよ。』



優しく刺のあることを言うのは昔のままだな。別に来たくて来たわけじゃないのに。

ただ帰り道が分からないだけだ。

地べたに腰をおろし、煙草に火をつけて。

だって、それを

探す気にもならないから。




『…仕方の無い人…』




困ったように息をつく。

そして、こっちですよ。と声のする方を見れば、窓のような物から見慣れた制服が眼下に見えた。





「おーう!トシ!」

「何やってんでィ?置いて行きやしょう。」


「副長!早く早く!」

「副長!早く早くそのまま死んでくだせィ」




笑いながら手を振る仲間達。

ん?‥今総悟が2回出て来ただろうあのヤロウ。

待ってろ今度こそぶん殴ってやる。

すぐに窓枠に手を掛けてそこから飛び降りようとした。後ろから、今俺の文句言ってただろうって、羽交い締めにして、それから…



その前に。




ちらりと振りかえれば少し離れた処に彼女が立っていた。居ると思ったんだ。

最初から姿を見せろと言えば


『だってそんな事したら離れがたくなっちゃうでしょう?』

「誰が」

『わたしが。』



そしてまたクスクスと笑っている。









なあ、また逢えるか?




そうね

でもそれはずっと先。


貴方はきっとまた何度も

悲しい朝や、辛い昼や、やりきれない夜をむかえる。

だけどそれよりもたくさん笑って。


何度も、何度も、何度も。

笑って、笑って、生きて。








『それから…‥っン』









勝手な事ばかり言うその口を塞いだ。



勝手だな、
お前は勝手だよ。



俺にだけ生きろという。


辛い事もあるだなんて何でも分かったような事を言っておいて、何が辛いのかなんて、何一つ分かってなんかいないだろう。










「        」










耳元で囁いて、背を返した。

もう一度言って

そう言った彼女を振り返り見ることもなく、



「次に会った時にな」



言い残して窓から飛び降りる。

落ちながら、その冷たい唇が

まってる

と動いて微笑んだのが見えた。



ああ、お前の言うとおりだよ。



きっと明日の朝は悲しい、昼は辛いし、夜はやりきれない気持ちで、もしかしたらまた。こんな風に涙を流すかもしれない。



なあ、でも



次に目を開くとき、きっと涙は乾いている。

そして、抱き付く部下と大泣きする上司を押し退けて、強がる総悟のバカに喝を入れて

俺はまた笑うよ。

何度だって。あいつらと。



なあ生きるよ、俺は。




…落ちているのか浮いているのか分からなかった。

ただ優しい何かに守られているような、不思議な感覚がした。



ごめんなさい

ありがとう。

私も、ずっと、ずっと





何かが聞こえた気がしたけれど、それに耳をこらすこともなく、目を閉じた。



安心しろよ。
忘れたりしないから。


それは

ずっと先になるかもしれないけれど。


だけど次に逢ったその時には、何度だって言ってやる。

‥いや、それは嘘。

こんな恥ずかしいこと、やっぱりあと1度しか言わない。

だけど次に逢う時には。

抱き締めて口を寄せて、その涙を拭ってから、ありったけの想いを掻き集めて、ちゃんとお前に言うから。





光りが見えた。

目が覚めるまであと少し。







なあまだ聞こえるか?

特別に

もう一度だけ言ってやる。


今度はしっかり聞いておけよ。

















「ずっとお前が好きだよ」












 

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