頂き物・捧げ物等

□満月の夜に
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「お月見と言えばお団子や。どう、おいしいやろ?」

「…不味くはない」

「素直やあらへんなぁ。ボクには天の邪鬼でもええから、お団子にくらい正直になってや」

「余計なお世話だ」



ふいと顔を背けると、市丸が再び砕蜂の手を引く。それに抗おうとする前に、砕蜂の掌にひらりと一枚の布を被せた。そしてそこに五つ程、さっきの団子を乗せて包む。




「ボクから二番隊長さんにお土産。せっかくやから、食べたってや」

「──私は、」

「お団子に罪はあらへんやろ。『こんなもの貰う義理は無い』なんて、言わんといてや」

「──仕方ない。…貰っておこう」

「おおきに」




嬉しそうに顔を綻ばせた市丸に、砕蜂はまたふいと顔を背けた。そのままくるり、踵を返す。完全に背を向けても、市丸は今度は砕蜂を引き止めなかった。



「…二番隊長さん。ボクな、ずっと思てたことがあるんや」

「──何だ」

「あの真ん丸なお月さんの色。ハチミツみたいで、見るたびに二番隊長さんを思い出すなぁて」



せやから今夜は、二番隊長さんとお月見したかったんや。



何の臆面もなく言い放たれたその言葉に、砕蜂は瞠目する。




(──私が、満月の色…?)




砕蜂にとって、それは焦がれてやまない夜一の色だった。強い光を湛えた黄金の瞳。時に鮮烈で時に優しいその瞳を、満月のたびに思い浮かべる。



だから誰より憧憬するその人と、同じ色を纏えているのだとしたら。これほど嬉しく誇らしいことは、砕蜂にとって他に無い。




「──それは光栄だな」




僅かに目元を緩ませて、砕蜂は小さく囁く。その声を聞き漏らすことなく、市丸も柔らかに笑った。微かなその気配を感じ取ってちらりと背後を振り返った砕蜂に、市丸はひらひらと手を振る。




「良かったら、また一緒にお月見してや。半月も三日月も、綺麗な色やから」

「──そうだな。団子があるなら、考えておこう」




驚いて目を見開いた市丸を一瞥すると、砕蜂は風のようにその場を去った。瞬歩で夜の頻闇を駆け抜けながら、ぷかりと浮いた月に目を和らげる。




(あの男を月に例えるなら──欠けゆく途中の三日月といったところか)




それはあの長く細い目と、さらりと揺れる銀色の髪を。どこか思い起こさせるもののような気がして、──砕蜂は小さく笑った。





満月の夜に



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