頂き物・捧げ物等
□世界一俺を馬鹿にさせる君、おめでとう
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毎日毎日丁寧に水拭きされている白い床は天井の白熱灯を反射し、ピカピカと光ってる。テーブルにだって抜かりはない。生けてある花も、グラスもホストの礼儀も。勿論、ホストの態度も。
「ソ、ソウくん?なんか…怒ってる?」
人の目を下から覗き込み、控えめにたずねてきた女にニッコリと微笑みやんわりと否定の言葉を。
「別に。怒っていませんぜィ?」
「…で、でも、ソウくんの後ろからどす黒いオーラが見えるよ…?」
「気のせいでさァ」
「でも、」
「あ、もしかして体調悪いんじゃないですかィ?今日はもう帰った方がいいのかも。うん、それがいい。ささっ、もうお帰りくだせェ」
「え、え!?ちょソウくんっ?」
トントン拍子で進んでいく会話に、終いには自分がテーブルからはなされ玄関にまで引きずられている状況に焦りと驚きを隠せない女客。ガチャリと扉がソウによって開かれ、有無を言わさぬまま女はネオンの光輝く外へと押し出された。
「今日の支払いはまた今後来たときに宜しくお願いしまさァ」
言うなり軽くウィンクをし、扉を閉めた。向こう側からなにやら言っているようだが無視を決め込む。
その様子を唖然と見ていた白馬のジミーに睨みをきかす。この際、何故白馬が店の中に居るのかは気にしない方向で。
「トシーニョさんに怒られますよ」
「構わねーよ」
ジミーの横を通りすぎ、俺は従業員専用の控え室へと向かう。途中ボーイに引き留められたが立ち止まる事はしなかった。
ドアノブをひねり、扉をガチャリと開ける。とたん香ってきた煙たい臭いに思わず顔を歪めた。
「きっとトシーニョさんの肺は真っ黒ですねィ」
ヘラヘラと作り笑いをしながら此方に背を向けている男に話しかけた。
「お前がどーして此処にいる」
振り向く男の口から出た白煙をわざとらしく手で払いのる。その行為に眉をピクリとつり上げた事に、短期だなぁ、と内心毒づいた。
「ちょいと外出したくて」
「駄目だ」
「即答ですかィ。もちっと考えてくれてもいーんじゃねーですかィ?」
「お前を外に出したら最後だろーが。戻ってきやしねぇ」
「えー」
「えー、じゃねぇ。常日頃の行いが悪いせいだろーが。自業自得だ。それにお前、指名されてんだろ?客ほっぽり出してどこ行くつもりだ」
やっぱり駄目だったか、と思ってみるも引き下がる訳がない。
ひとつため息をつくと、再びドアに向かい煙たいこの部屋から出ようとした。
「ソウ、」
「トシーニョさんがなんと言おうと、俺ァ行きやすぜィ」
「駄目だ」
「今日だけはどーしても、なんでさァ」
行かせてくだせェ、その言葉を最後にドアを閉めた。ドア向こうから暴言が聞こえないという事は、納得、とまではいかないが目を瞑ってくれたのだろう。明日はみっちり叱られる事を覚悟して、俺は裏口から店を出た。
まだまだ眠らない街を歩き、適当な花屋で赤い薔薇を買い占める。勿論、ラッピングをしてもらう事も忘れずに。
金を支払い、ありがとうございましたー、という店員の声を背に、大きな花束を抱えて鼻歌まじりに歩く俺の姿に思わず自分自身で苦笑いした。
Happy Birthday、
今年も無事アンタの誕生日
が迎えられて嬉しいよ。
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