頂き物・捧げ物等
□いつもいっしょ
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hm
「つきよ、十四郎さん」
「…は?」
「だから、月。満月、きれいよ」
ほら、と細い指先が示す彼方を見上げれば
薄紅の夕空にそこだけシールを貼ったようなやけにくっきりとした白い月
どくどくと鳴る心拍音とは裏腹にただ動かない月が浮かんでいた
(「好きよ」って言われたのかと思った…)
そんな浮わついた情けない気持ちを知ってか知らずか、ごく自然に俺の手を取り家までの道を横に逸れて小走りに小高い丘へと駆け上っていく
「少しでも近くで見たいから」なんて言って
てっぺんに辿り着くと、ごく自然に手を離して息を切らせているのを必死に隠す女
それが堪らなく哀しくて愛しくて
目を見ることすら出来ない自分は拙い想いを
秘かに秘かに
なるべく頭の奥深く
忘れないように
誰にも汚されぬ場所へと仕舞い込む
歩調が合わないのだ
共に歩めない
せめて彼女が心奪われた満月を目に焼き付けておこうと、
此処で見る最後の夜空を睨む
「あの月が沈んだらお別れね」
隣で呟く無表情な声が痛かった
その翌日から俺は「土方十四郎」になり、
血生臭さと煙草を覚え
正義と責任を糧に暮らしている
前だけを見て
大将の正しさだけを信じて走っている
それはこの上ない幸福だけど、
疲れて心がくたくたになる時には時々思うのだ
あのままあの手を握りなおしていたら
そしてそのまま二人で暮らそうと言っていたら
人並みの幸せが待っていたのだろうかと
叶いっこない自嘲めいた妄想をする沸いた頭を鎮めるように
冷たくて穏やかな夜風が宇宙の方から吹き抜けていった
(Aqua Timez)