頂き物・捧げ物等

□何もかもが白い世界で、
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「とう、し…っ」

赤いその瞳が大きく揺れ、透明な雫がポロポロ零れ落ちるその様は、この世で一番純粋で綺麗なんじゃないかと思った。
零れ落ちる涙を慣れない手付きでなでるように脱ぐってやると、くすぐったそうにミツバが身を捩った。

ロマンチックの欠片もないと男の俺でも思う。
でも、ここでなきゃ駄目だったんだ。ついた手を沈める白いベッドだとか、開け放たれた窓から差し込む太陽の光や風だとか。消毒液の香るこの部屋でなきゃ駄目だと思った。

「…迷惑、かけるとおもう」

俺はあんまり口に出して伝えないから。ぎこちなく、掠れた声でそう伝えると、サラサラな栗色の髪を左右に振り乱してミツバが否定した。

「っそんなの、お互い様です」

瞳に涙をいっぱいためて、でそうになるしゃくりを精一杯に留めて笑うミツバ。その姿は、俺の胸を締め付けるのに十分だった。多分、今物凄く情けない顔をしていると思う。

すん、と鼻を啜り、ちょこんと布団の上にある白い手の細い指を絡めるように握る。少しかがんで見つめあえば、自然と重なる唇。
触れあった熱から離れがたいけれど、体力のないミツバを苦しめるのは死んでも嫌だ。最後にわざとちゅ、と音をたてて名残惜しい唇から離れた。

「…退院、おめでとう、な」

「はい」

「…、それと「十四郎さん、」

ありがとう…ありがとう、十四郎さん。俺の声を遮りそう言ったミツバを今度は堪える事なく抱き締める。ふわりと香るミツバの優しいにおいに不覚にも、目頭が熱くなった。

「好き、です」

「…俺もだ」

「…ふふ、珍しいですね。十四郎さんが言ってくれるなんて」

握りしめた淡い桃色のパジャマはきっと皺になっているだろうし、掴んでいる細い髪の毛からは少なからずツン、と痛みを感じているだろう。それでも、背中にミツバの腕が回されたのを感じ取るなり、さらに抱き締める力を強くした。

「ミツバ…」

「はい」

「ミツバ、」

「はい、…ここにいます。私、ちゃんとここにいます、十四郎さん」

馴染むように俺の耳に入り込んできた声に、とうとう目尻から流れ出した液体。もう男なのにだとか、情けないだとかは関係ない。

「、ミツバ…離れるな」

「…、十四郎さんが離れろと言っても離れません。…絶対に」

ミツバが背中から手を離し、俺の胸板を押した。俺も手を離し、乱れた短い髪を直してやる。
未だ潤んだ自分の瞳を見てミツバがふわりと笑った。頭に撫でる手付きが俺と違って酷く優しい。そう思って、彼女の弟の存在を思い出した。

撫でる手を出来る限り優しく取って、薬指の付け根を撫でた。そこにある金属の、ツルリと滑る部分と、それなりの宝石が埋め込まれた凸凹の部分を何度も何度も撫で続け、どこぞのクサイ男のように口付ける。
それを驚いて見ていたミツバが、十四郎さんらしくないですね、と頬を染めて笑った。

「…幸せに、する」

「…はい」

緊張して強張っている体を落ち着けようと、すぅ、と息を吸う。こんな情けない俺を最速するでもなく、微笑みながら待っているミツバに、俺の人生で一度言うか言わないかの言葉を囁いた。







そのあと、嬉しそうに笑みを浮かべ頷いたミツバの華奢な体を、勢いよく抱き締めた。






有難うございました^^!


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