Short Story3

□僕の初めての恋は、
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(彼女は、とても幸せそうな顔をして笑ったんだ)



俺は、典型的な地味キャラで。
顔が地味なら性格や行動もそれに合わせたようなものだ。そりゃあ風紀委員の端くれだったり、結構個性的な上司(此処ではクラスメイトだけど)に囲まれたりして苦労はしているが、それもこの個性的なクラス(特に担任)の前ではそれも目立たなくなる。つまりは逆に、周りが個性的過ぎて普通のヤツが地味さで浮くのだ。



「ハァ…」

「ため息なんてついたら、幸せが逃げるわよ」



びっくりした。その声に顔を上げれば目の前には藤色。…というか、びっくりしたのはそれだけじゃない。


俺はこのクラスメイト──…「猿飛あやめ」とはそんなに関わりがなく、同じクラスとはいえあまり話したことはなかったから。(それに俺なんて最初っから眼中にないようだし)


そして何より元からなのか気配を消すのが上手くて気付けなかったのもある。…というか、この人何しに来たの?もう放課後なのに。



「…珍しいね」

「…え?」

「いや、あんまり喋ったことないからさ」

「…それもそうね。でも本当の事よ」

「ため息の話?」

「ええ、」



彼女はそう言って席に着いて、机に突っ伏した。疲れているんだろうか。たくさん聞きたい事はあった(例えば、忘れ物を取りに来たの?とか何かあったの?とか)けれど、何となく口に出せずに居る(そもそも元からそんなに喋ったこともないし、聞くだけ野暮ってもんだ)



放課後の教室はとても静かで、昼間のこのクラスの賑やかさと比べたらウソのよう。普段は聞こえそうもないぐらいの小さな風の音も今はハッキリと耳に届いて…。



次の瞬間。
強い風がゴォッと大きな音をたてる。風になびく黒と紫。俺は不覚にもその鮮やかな色に目を奪われた(パラパラと手元の日誌が音をたてたことにも気付かない程に)


ちょっとだけ。…いや、すごく。藤色が、"猿飛あやめ"というクラスメイトが綺麗に見えた。


(今まで彼女の事をそんな風に見た事はなくて、そう思った事に激しく動揺してしまう)



「ねえ、」

「…へっ?」



口から飛び出すすっとんきょうな声。急に掛かった声に大きくビクついてしまった。…なんだよもう勘弁してくれよ。どうやら本人は俺がビクついた事には気付いていないようだ。ああ、助かった。それだけが不幸中の幸いだ。



(見とれてた、なんて言える訳ないしそれは偶然であって、魔が差しただけであって惚れた訳じゃないから!いや、断じてないからね。仮にも相手は担任をストーカーしてる人だからね)



どうも"猿飛あやめ"という人物は人を驚かすのが得意のようだ。全く人騒がせな…。


でもなんとなく彼女の顔が見づらくて、日誌を見直すフリをしながら「なに?」と返した。



「山崎くんは、誰かを好きになった事あるかしら?」

「いきなり失礼だな!そんなのあるに決まってるだろ!?何その俺を哀れむような目!ウソじゃないから!あるからねそれくらい!」

「あら、ごめんなさい。貴方地味だからつい」



いや、地味関係ないし。しれっと言い放った彼女に、山崎は片眉をつり上げた。心外だ…失礼にも程がある。…というか自分は誰と絡んでもこうなのかこういう扱いなのか。

自分の不幸な境遇を自覚し始めた時、



ふわりと。
今まで見たこともないぐらいに柔らかく、穏やかに微笑んだ彼女。



「好きな人と話したり、目が合うだけで幸せな気持ちになるわ。恋をするのってすごく幸せなことだと思うの」



(それが例え片想いでも、叶わぬ恋だとしても)



…どうやら自分は何か勘違いをしていたようだ。彼女は自分が思うほど、変でもMでもなかった。

ただ純粋に、真っ直ぐ。
"恋をしている女の子"の瞳。
(本当は真っ直ぐな子)




ただの女の子でしかなくて、本当は誰より一生懸命あの先生を想ってるんだ。



それを強く感じると同時にチクリと何かが胸を刺した気がするが、それは気のせいだと思い込んでしまおう。



(まさかこんなタイミングで気付いてしまうなんて、)



もう、戻れない。







(芽を出す前に消えました)







─────────
銀さち←山


かなり前に書いていたもの。
ザキの片想いが好き過ぎる←





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