Short Story3

□家庭教師に恋をする
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(ねえ、)
(あ?)
(緊張しない?)
(…別に)




カチ、カチ、カチ。
進む秒針の無機質で一定のリズムを聞きながら。

動かす手の先には、ギュッと握られている筆記用具。広くて真っ白な海に滑らす黒。本当はその白を殆ど無くさなきゃいけないのだが。

嗚呼ダメだ、それらが全て文字じゃなくて意味のないただの記号の羅列に見える。時計の針の音だって聞いているつもりで上の空。

頭がいっぱいで、集中出来なくて。私の頭はエンスト寸前。




「…おい、」

「ふわあっ!」

「ったく、何ボーッとしてんだよ」


色々とごちゃごちゃ考えていたらいきなり声を掛けられた。声の主はそう、私と向き合うように座っている幼なじみ。



「お前な、集中しろ」

「だ、だって…」

「"だって"じゃねェよ、テスト前だろが。教えてくれって言ったのお前だろ」

「むー…意地悪」

「意地悪で結構」



ジロリと睨まれた(多分本人に睨んでるつもりはなく、目付きの悪さ故のことだ)あと、また彼の視線はノートに移された。…何よ、ちょっとは気に掛けてくれたって良いじゃない。この問題が難しくて頭がこんがらがっちゃって、パンクしそうなのに。これ以上詰め込んだら、



(嗚呼本当に、破裂してしまいそうで)



破裂寸前の頭を何とかしようと唸っていると、どうしたことか。私の向かいに座る人はため息をついて立ち上がった。どうしよう、まさか見捨てられた?ううん、呆れられたのかも。


そのまま部屋から立ち去ってしまったものだから、なんだか急に悲しくなって。



(自分自身が招いた結果なのに、自分勝手なのは充分わかってるのに、)
(離れて行って欲しくなくて)



ノートの隅っこに、小さく書いた四文字と五文字。意地悪なんて言って「ごめんね」、そして「ありがとう」

何時だって私の為を思って言ってくれているのに。

ブンブンと頭を降って。
残った問題に取り掛かろう。少しでも進めなきゃ、なんて筆記用具を持ち直した時。




「…桃、」

「!」



いつの間にやら部屋の入り口に立っていた幼なじみ。


その手のお盆には、マグカップが2つ。甘い香りが鼻腔を擽ってきた。


ふわりふわり、と。
浮かんでは消えていく真っ白な雲。



「良い匂い…」

「飲むか?」

「もしかして、シロちゃんがわざわざ入れてくれたの…?」

「当たり前だろ。…つーかなんて顔してんだよお前」



コトリ。
目の前に置かれたマグカップをじぃっと見つめる。ああ、甘い匂いの正体はココアだったのね。それと同時に香る香ばしさは、珈琲か。


さり気ない気遣いが彼らしくて。
どうしよう、凄く嬉しい。



でも先程まで自分は不機嫌だったのだ。コロコロ表情を変えてしまったら子供みたいで格好悪いし、故にそれを素直に顔に出して良いものか迷ってしまって、今私の顔はなんともいえない複雑な顔になってしまっているのだろう。



「ううん、なんでもない。でもどうして…?」

「…取り敢えずきゅーけい。頭パンクしそうなんだろ?」



(えっ、なんで!?)



驚いて顔を上げると、意味有りげに笑みを浮かべる意地悪星人。もう酷いんだから…分かって言ってたのね?要するにお見通しなんですね、流石です日番谷名探偵。


それでも笑って許してしまうのは、意地悪な言葉を発しても瞳は優しくて。そんな貴方のことが大好きだからで。

私に向けて並べられる言の葉達に一喜一憂してしまう自分がなんだかちょっぴり悔しい。



「ねえ、シロちゃん」

「ん?」

「ありがと」

「…礼ならもう貰った」

「え?」



トントン、指先で叩かれる先は彼のノート。導かれるままに目をやると、そこに書かれているのは記号の羅列でもなんでもなく──、



(け、消すの忘れてた…っ)




頬に熱が集まった、気がした。





家庭教師にをする
(それは甘いココアのような)




(受験日近くて緊張しない?)
(別に、)
(どうして?)
(志望校はお前レベルまで下げてるから問題ねーんだよ)
(な、何よそれっ!別にシロちゃんと同じ学校なんて行きたくないもん!)
(ハイハイまあ頑張れ。解んねーとこは教えてやるから)




──────────

何故か我が家の日番谷くんはSっ気が強い気がします済みませんっ(苦笑)


受験勉強に励む雛森と日番谷くん。何となく雛森は文系な気がする。で、日番谷くんは理数系かオールマイティー。


こちらは1&1記念フリーですので、宜しければお持ち帰り下さいませっ

1周年&1万打、ありがとうございましたm(__)m


09.02.11

管理人.桜子




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