Short Story3

□とある少女のエレジー
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ねえ貴方、何だか変なの。何時もと同じ筈なのに胸がズキズキと痛むの。



ねえ貴方、こんな事で引き下がるような男(ひと)じゃない。そうでしょう?今までだって私がどんなに酷い事を言っても、殴り付けても平気だったじゃない。馬鹿みたいに、しつこいぐらいにタフな生命力が売りでしょう?何時もみたいにまた立ち上がって何も無かったみたいに笑って好きですって言ってよ。じゃないと私、どうしたら良いのか解らなくなるじゃない。




どうしてくれるの。ねえ、ねえ。




(好きでした、なんて聞きたく無かったのに)
(なんで終わってしまったの?)






「───お妙さん、」





嫌よ、ねえ。だからゴリラは好きになれないの。勝手に人の心にズカズカ上がり込んだクセにまた勝手に居なくなるの?自分勝手な人は嫌い。何よ悲しませないって言ったクセに。





「俺は、貴女が大好きでした」





( さ よ な ら 。)





何とも悲しそうな顔で、呟くように絞りだすようにそう言って。何よ何よ諦めなんてつかないくせに。何とか言いなさいよ、ねえ。





…ねえ。

息、が。
呼吸がしづらいのは何故なのかしら。あのゴリラったら何か病気を移して行ったんだわ本当に迷惑な人。





…ねえ。

視界、が。
ゆらりゆらりと揺れるのは何故かしら。鼻の奥もなんだかツンとする。嫌だわ風邪でも引いたのかしら。今度会った時は覚えてらっしゃい。






(それから暫くして、テレビであの人を久しぶりに見た)
(久しぶりに画面越しで見たあの人はいつもみたくずっと欝陶しく笑顔を浮かべたまま、動かずに)





(──そう。まるで、)





「近藤さん、なんて酷い嘘をつくの」





(あの人はタフで何回殴ってもびくともしなかったの。悪い冗談。誤報に違いないわ)





「ゴリラのクセに生意気ね、私をこんな気分にさせるなんて」





(あの人がもうどこにも居ないなんて、ねえ。胸が張り裂けてしまう)












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