Short Story3

□それは温かな、
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(…なァ、)
(はい)
(まだか?)
(まだです)




とあるとても暑い日。
その日はお天道様が本当に活発に働いていて、更には雲一つない快晴。うだるような暑さに根をあげる隊士が後を絶たない中、その男は一人黙々と木刀を振るっていた。



「隊長ォ、こんなクソ暑いとこであんまりやり過ぎるとぶっ倒れますよー?」

「僕もそう思いますよ。隊長も少しは水分を摂って休憩したほうが…」

「かき氷食べたーい!!」

「うぉぉい!!!テメェは空気を読め!!」



縁側にて、こちらの様子を見ながら好き勝手を言う部下達。まあ言っていることは正しいのだが…こっちが木刀をひたすら振るっている時にうるさい連中である。「かき氷」だの「つるっぱげ」だの「ドチビ」だの「やめなよ一角」だの…これでは集中出来やしない。


いい加減腹が立ってきた。
剣八の額には青筋が1、2本。
腹が立つのは暑さが原因でもあるが、そんなことはどうでも良いのである。



「うるせぇぞ一角!!集中出来ねェだろうが!!」

「えぇぇぇ!?なんで俺だけなんスか!!」

「テメェが一番うるせぇんだよ!」

「あっはは、やーいつるりん怒られた〜」

「…ッのやろう…待ちやがれこのドチビ!!」

「うるせぇっつってんだろ一角!!」

「もうやめなよいっか……隊長?」



グラリ。
三度目に怒鳴った瞬間、世界がグニャリと揺れて回った。思わずよろけて肩膝つくと、それまで騒がしかった3人が心配そうに駆け寄ってくる。



「ちょ…っ、大丈夫スか隊長!?」

「これくらいどうって事ァねェよ」

「何言ってるんですか!とにかく四番隊に…」

「んな大袈裟にしなくても問題ねェよ。少し休めば治る」

「や、隊長…副隊長が呼びに行ったみたいですけど…」

「………」




* * * * *

診断は『熱射病』という、なんともまあツッコミどころのない普通のものだった。

喋る元気があるとは言え、念のために暫らくの間しっかり水分を摂って安静にするようにとの指示が。当然剣八はその指示を無視して鍛練を開始しようとしたのだが──それはとある圧力により邪魔され不可能なのである。



その圧力とは、「微笑み」だ。



なんとなく苦い顔をした剣八の横に居るのは、四番隊隊長卯ノ花烈。どうやらやちるが酷い病気なのだと勘違いをして、わざわざ四番隊を指揮する隊長殿を連れて来たらしい。

…まあ誰よりも腕は確かなのだが、少し大袈裟過ぎやしないか。ただの熱射病で。



「んじゃ、隊長はしっかり休んでて下さいよ。俺らは昼メシ食ってくるんで」

「……ああ」

「では卯ノ花隊長、失礼します」

「剣ちゃんをよろしくね卯ノ花さん!」

「はい、わかりました」




卯ノ花はふわりと微笑み、3人を見送った。3人が居なくなるや否や、途端に静かになるこの場所。



「………」

「………」



聞こえる蝉の声がはっきりと聞こえる程、沈黙が続く。…あまり居心地が良いものでもないので、面倒くせェな…と剣八は一人ごちる。

なんとなく額の上にある冷たいおしぼりを目の辺りまで移動させ目を隠すようにすると、軽くため息。それを聞いたのかは定かではないが、暗くなった視界の片隅で、卯ノ花が微笑んだ気がした。




「随分とまた…無理をなされたようで」

「…ああ?そんなもんはいつものことだ」

「ふふ、そうですね」



ですが…と卯ノ花は付け加える。


「貴方が倒れてしまっては十一番隊は指揮する者がいなくなり滅茶苦茶にになってしまいますから、あまり無理はなさらないように」


隊士達を纏めるも貴方の役目。
隊長の役目でもあるのですから。


柔らかな声色が、包み込むように響く。

成る程、やはり隊長の名は伊達じゃないということだ。人を癒すとは何たるかを知っている。


こちらもそんなことは解っているつもりだと、だが敢えて返事はしなかった。今はなんとなくこの静かな空間が、心地好く思えていたから。



「…なァ」

「はい」

「まだか」

「まだです」



言葉足らずの問いかけさえ、寸分の迷いもなく。またクスクスと笑われて、なんだか子供扱いされているみたいで調子が狂ってしまう。



「身体をしっかり休ませることも大切ですよ」

「…」

「ふふ、慌てずとも鍛練は逃げはしませんよ。お茶にしましょう」

「…ああ」

「冷たいお茶を飲みながら庭を眺めるのも、なかなか風流なものですよ」



はい、と手渡されたお茶は程よく冷たくて気持ちが良い。
ゆっくり起き上がって隣を見ると、いつの間に持って来たのだろう。きちんと茶菓子まで用意されていた。



「……美味い」

「あら、それは良かった。どうぞお茶菓子も召し上がって下さいね」



隣で表情を綻ばせた卯ノ花に何故か言い表わすことの出来ない高揚感を感じながら、剣八は庭を眺める。


ふわりと感じた柔らかな風に、たまにはこんな風に過ごすのも悪くはないなと思ったのだった。





(落ち着ける場所)





─────
剣八×卯ノ花。
マイナーですが好き。

前々から書きたいと思っていたので、書けて満足です(^ω^*)






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