Short Story3
□Happy birthday!
1ページ/1ページ
それは10月9日の夜。
何時もよりも大きな物音を立てて、奴は寝室に降ってきた。
幸か不幸か、その時はまだ布団を敷いたばかり。寝る前の準備をしていて、洗面所で歯を磨いている最中だったので乗っかられる被害に合わずに済んだ。嗚呼今日はツイてる(ただし、いきなりの音に驚いて絶賛味わい中だったイチゴの歯磨き粉やら何やらを飲み込んでしまったのはいただけない!)
相手にするのも面倒だったが、さらには先程の歯磨き粉の件だ。うう…とか何とか変なうめき声が聞こえたが無視を決め込む。そりゃあ痛ェだろうよあんなに馬鹿でかい音立てたんだから。まあ、奴の自業自得なのでこっちは知ったこっちゃないが。
「ひどいのね、あんな音を立てて落ちた私を無視するなんて。でもそれでこそ銀さんだわ」
気にせず鏡に向かって歯を磨いていると、横からストーカーの声。怠そうに横目だけで確認する(目が合うとさっちゃんは「きゃっ、見つめないで…!」なんて言いながら頬を赤らめて顔を反らした。つか見つめてねェよ)と、扉の間から頭だけをニュッと出した状態だった。…正直生首みたいで気持ちが悪い。
もう休みたいのに何故こんなに疲れる相手と接しなければいけないのか。自分自身を不憫に思いながら追い返す為に仕方なく歯ブラシを動かす手を止めた。
「お前ね、頼むから帰ってくんない300円あげるから。俺は今イチゴ味を味わい直すのに忙しいの」
「味わう…?味わうなら目の前に禁断の果実があるじゃないさっちゃんという名のメス豚が!さあ欲望のままにかじりつきなさいよ!!いやかじりついて下さいお願いします!」
「黙ってろストーカー」
「何!?今度はそういうプレイ!?良いわよ受けて立ってあげるわよ!!」
喚くメス豚に歯磨き粉を投げ付けて、銀時は頭を抱えた。
(……ダメだ)
コイツはどうやってもアブノーマルな会話に結び付けてしまう。その顔の横についてるのは耳じゃねェのかオイ人の話を聞け馬鹿。ストーカーとまともに話をしようとした俺が馬鹿だった…いや、間違いなく馬鹿なのは奴のほうか。どっちにしてもまともに話を聞く相手じゃない。今は夜で就寝間際(子供達も眠っている)。故にテンションも下がっているから怒るのも億劫。なるべく穏便に追い出したかったが……諦めるしかないのだろうか。
もはや諦めの境地で、銀時は頭を掻いてため息を一つ。歯磨き粉の痛みに悶えているあやめに声を掛けた。
「お前何しに来たの」
「あっ、大変!!銀さん、今何時かしら?」
「……ハア?」
今質問しているのはこっちである。それに質問をし返すだなんてなんだか面白くない。そう思いつつも本当に慌てている様子のあやめに、もしかして仕事の予定が…?なんて柄にも無く少しだけ心配して、律儀に教えてやることにした。
「あー…今11時過ぎだけど。つかあともうちょいで明けるだろ」
「そう…銀さん、もう少しだけ此処に居させてくれないかしら?」
「あん?」
「用事が終わったらすぐに帰るから」
いつもいつも大袈裟過ぎるぐらいのテンションで笑ったり叫んだりするのに、その時のこいつはそこら辺に居る女のような笑い方をした。一瞬息が詰まったのに意味はないと思う。ただ、ふわりと微笑んだそいつを、初めて見た気がして。
コイツもこんな笑い方出来るんだな、なんて。
「…俺が毎回帰れって言ってもすぐ帰らねェクセに今さら何言ってやがんだバカヤロー」
「……それは此処に居て良いってこと…!?そうなのね銀さん!!」
「何勝手に意味変換してんだァァァァ!!!!!」
「嬉しいわ、ありがとう銀さん!」
「人の話を聞けェェェ!!!!!」
‥前言撤回。
言うなり唇を寄せてくるストーカーを近付けないように顔を押さえ付けた。やっぱりコイツはいつものテンションだった。さっきのは見間違いか何かだったんだきっと。
どうしようもない疲労感を感じて、ピッとテレビのリモコンを押す。パッとついたチャンネルはちょうど深夜特有のお色気が強い番組が放送中だ。隣に女が居るがストーカーに気を遣うこともないので特に気にせずそのまま見続ける。‥お、デカイ鼻糞取れた。
「ねえ銀さん、今銀さんが欲しいものって何かしら?」
「ストーカーが居ない安息の地」
「誰?私の銀さんにストーカーしてるのは!!安心して銀さん、ストーカーなんてさっちゃんが退治するから!銀さんにストーカーして良いのは私だけなんだから!!」
「いやお前だからねそれ。ストーカー目の前に居るからね」
「やだ、"お前"だなんてまるで夫婦みたい…!」
「…はあ…ほんっとお前何しに来たの」
話が全く通じないが…もう面倒臭いのでこの際どうでもいい。手持ちぶさただったこともあり、気付かないことをいいことに妄想して悶えるそいつの額に鼻糞弾を命中させた。
一発、二発、三発…
見事に同じところに命中し、鼻糞が重なった。何コレ俺のび太より射撃の才能あるんじゃね?
「あ、銀さん今何時かしら?」
「あん?だからさっき言ったろーが0時近いって。見ろコレ、番組だってテロップ出てんでしょーが」
「…じゃあ、ちょっと待ってて」
「……はあ?」
今日で何回目よ、コレ。
そう呟いて、額のど真ん中に鼻糞(大仏みたいになってる)を付けたまま台所へと消える。
しばらくして、甘い匂いを漂わせてそいつは戻ってきた。
糖分に目が無い俺の鼻と目が反応し、何だ何だとその甘い匂いの正体を探す。
「10…9…8…7…」
「…おい、お前それ」
「6…5…4…」
3、2、1。
「誕生日おめでとう、銀さん」
「……あ、」
口からは思わず力の抜けた間抜け声。そいつが持ってるのは紛れもなく俺の大好物の糖分、ケーキ(しかも俺の目が正しければ何時間も並ばなければ買えないような超人気のケーキ)で、表情を見れば先程と同じように柔らかく微笑む藤色。
驚いたのはそれだけの理由じゃない。その笑顔に、ドクリと心臓が少しだけ反応したこと。
そしてそれを心地よいと思ってしまった自分自身。
「どうしても、一番に伝えたくて」
「………ぷっ、」
「‥銀さん?」
(───ヤバイ)
どうしよう。
柄にもなく嬉しい。
(…やってくれるじゃねーか)
不覚にも、可愛いだなんて思ってしまったり。
「大仏サマに言われるたァ俺もツイてるね。なんかご利益あるかも──」
「…?」
とんとん。
自分の額を指で叩いて合図。
それに習って額を手で触って、漸くくっついている何かを発見したようだ。
「洗面所貸してやっから落としてこい。待っててやるからよ」
「え、ええ。ありがとう銀さん」
早く洗って来いと急かす俺の言葉を聞いて慌てて洗面所に向かう藤色に軽く吹き出した(まあ元は俺がくっつけたモンだけど)
(ああ、意外に健気なとこもあんじゃねーか)
さあ、戻ってきたアイツになんて声を掛けよう。
軽く礼を言う?それとも───
「ったく、めんどくせーな…」
それは誰に向かって出た言葉か。
真相は銀時のみぞ知る。
Happy birthday!
(この気持ちはきっと)
──────
祝☆銀誕!!!!!
日記で言ってた銀さちです。
いつもよりギャグ風味でやってみました(下品でスミマセン←)
気持ち銀(→)←さち。
銀さんが冷たいのはまあ…照れ隠しなんじゃないかな(え)
大変遅くなっちゃって申し訳ない(苦笑)下品だし祝ってんだか祝ってないんだかわからん出来になりましたが、でも愛はたっぷり込めてます(*´∨`)←←
Happy birthday銀さん!
これからもみんなと仲良くね!!