Short Story3

□夕焼けは時々優しい
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橙色は、ときどき何故か人を寂しい気分にさせる。





(特に理由はないのか、それとも)
(夕暮れ時の友との別れを彷彿させる色だからか)




"烏(カラス)が鳴いたらかーえろ"

遠い昔に、大好きな親友と手を繋いで帰ったのを思い出す。





「よう、九兵衛」



(何故だろう)
(君と見た夕焼けは綺麗で、
とても、優しい色をしていた)



何故か理由も無いのに悲しくなった時や寂しい時。
思えばいつの間にか傍に居たのは、あの銀色だった気がする。



「…なんて顔してんの」

「っ、うるさい!」









理由なんて、知らないけれど。
今日一日の鍛練が終わり、気分転換にと出て来ただけのこと。




(嗚呼、それなのに)




夕焼けの中、両親と子の3人で幸せそうに歩く姿を見たものだから。



(僕にだって父上とお祖父様が居る。なのになんでこんなに、)









ぽっかりと心に穴が空いたよう。
全くもって情けない。これでも僕は武士の子か!自分自身を叱咤するも嗚呼、一度空いた穴はそう簡単に塞がる筈もなく。





(なんでこんなに寂しいんだろう)





夕暮れの中、しばらく一人で佇んでブランコに座ってみる。…久しぶりに乗った。幼い頃はよく妙ちゃんと一緒に乗ったっけ。それは少し揺らすと「きぃこ、きぃこ」となんとも寂しげな音を立てる。





(訳もないのに…何を感傷に浸ってるんだ、僕は)






──と、自分の影に落とした目線の中にもう1つの影があることに気付いた。




へらり。
見上げた先には何時ものように飄々とした表情を浮かべた、




「其処のお嬢さん、カラスが鳴きましたよ」

「…あ、」






常に甘い匂いを纏ったなんとも胡散臭い銀髪の男。




「…なんて顔してんの」

「っ、うるさい!」




そいつはこちらを見て少しだけ目を見開いた。驚かせるつもりなど最初(ハナ)から無かったが、どうやら僕の顔は今歪んでしまっているらしい。弱みを見せてしまったのが恥ずかしかった。口からは思わず拒絶の言葉。





「何してんだこんなとこで。ガキは早く帰らねぇと変なオッサンが来るぞー」

「もう来た。目の前に」

「……」




視線を落としたままハッキリと言う。…黙っている…もしかしなくても怒らせたか。


でもこれ以上、弱いところを見せるのは気が引ける。上手く話を反らせれば上出来。もし出来なくても今日のところはこれで怒って帰ってくれ。





「違うか?」

「きゅーべぇーくーん?それはどういう意味デスカ?」

「そのままの意味だ」




トドメの一撃。




グッサリと。
音をたてて銀髪の男の頭に矢印が刺さったのが見えた──気がする。



だが、坂田銀時という人物は此処で素直に負けを認めるような男ではなかった。





「…あーそーですか」

「あっ、オイ!」




スタスタと早歩きでこちらに来たかと思うと、あろうことか銀髪の男は空いていた隣のブランコにドッカリと座ったではないか。夕暮れ時の公園で、良い歳こいたオッサンがブランコを占領している姿はなんとも滑稽である。





「な、なん…」

「なあ」





なんでわざわざ隣に座るんだ、という言葉は喉から出る前に引っ込んだ。





「明日は良い天気になりそーだよな」

「…は…?」






なんなんだ突然。
座った理由にもなってないじゃないか!なんの脈絡もない世間話(?)を突然降られて、どうしたら良いのかわからない。




横目でちらりと男を見ても、考えていることは読めなかった。


だけど、この男は僕を一人にはせずに傍に居てくれている。



(もしかして気を遣ってくれてる、のか…?)






「な、何故そんなことを…?」

「あ?そりゃあお天道様が良い色に染まってるからだろ。だから明日は晴れるよなって話」

「いや、そうじゃなくてだな…」




(僕が聞きたいことに近いようで、論点がズレている気がするんだが…)





「………明日、」

「ん?」

「僕ら花見にでも行こうぜって計画を立ててるんですよ〜。だから良かったらお嬢さんもどうですか〜?」





またこの男は唐突にものを言う。

わざとらしい敬語で、ニヤリと何故か意味有りげに笑みを浮かべる銀色。

そのふてぶてしい表情に軽くムカつきはしたけれど、突然の誘いにも関わらず不思議と嫌悪感は無かった。






(何故かあったのは、緊張感)





「…か、考えておく」

「りょーかい。じゃあ万事屋でお待ちしてますぅ〜」




なんだその言い草は。
まるで僕が来ると分かり切ったような…




(…ああ、そうか)




其処まで考えて目線を戻すと、男は既に僕に背を向けていて。




「じゃあな」

「…ああ」




スタスタと早歩きで去っていく恥ずかしがり屋な男の背中を見ながら、僕は理解した。






(…まだ桜の季節には早い、な)





花見は口実にしか過ぎず、彼の本当の目的はただ一つ。





(僕が来るのを解ってるんじゃない)
(あの男は僕に望みを言ったのだ)





(もっと分かりやすく誘えば良いものを、)





頬に熱が集まったと同時に。
さっきまであんなに感じていた寂しさは消え去っていた。




夕焼けはときどき優しい
(それは遠回しの、)




Fin



─────
銀九。

銀さんが寂しくなった九ちゃんを気遣ってちゃっかりデートに誘うお話。

恥ずかしがり屋な銀髪のオッサンは、遠回しに黒髪の女の子をデートに誘う訳です。って…もしかしてコレ銀九というより九銀?(爆)


配布元↓
(C)確かに恋だった






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