Short Story3

□どしゃ降り時々君の声
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※先輩×後輩




「好き、です」



"心臓を鷲掴みにされる"という感覚を、今身を持って体験した。




それはある日の放課後。
漸く本日の活動が終わった剣道部(とはいえ、銀時自身はサボりだが)の部室から出ようとした時、最近お気に入りの黒髪が、剣道部一のツッコミ眼鏡と竹刀等を片付ける為に用具室を開けて入っていくのを見たのである。…なんとまあ今時真面目な。あれだけ勤勉だと、サボった俺は何となく一番最初に部室から出ることが出来なくなるではないか。


何となくその場から立ち去れず、次々と出ていく部員達に時々肩がぶつかってもそのまま。用具室の中が気になって気になって仕方がないのである。だってお前アレ、用具室に二人きりとか……いやまあどうでも良いんだけど。うん、本当にどうでも良いから。眼鏡にそんな度胸ある筈ないしね。それに九兵衛は男に触られるのダメだし。


どうでも良い、なんて言っておきながら足が向かうはただ一つ。竹刀やら何やらがたくさんしまってある汗の臭いがヤバい用具室だ。…って待て待て。あんな汗臭い部屋、入りたくもない。早く帰ってドラマの再放送を見なくちゃいけないのだから。



(アレ?銀さんどこ行くのオイ。止まれ俺の足!オイ聞いてんのか俺!!言うこと聞かねェと足をちょん切…ったら痛ェェェ!!)



端から見ればそれは異様な光景だろう。足を一歩進めては引っ込める…を何度も繰り返しながら用具室へ向かっているのだから。

しばらくその葛藤を繰り返したが、身体が身勝手に動くのをどうしても止められずにもう正直葛藤すら面倒臭くなってしまった(元々面倒なことは好まない質なのだ)。うん、まあ先輩として片付けを手伝うってことで…といい加減な言い訳を考えると、足を早めた。

葛藤に時間が掛かったというのに、一向に二人が姿を見せないからだ。自分はいい加減な人間だが、それなりに後輩のことは信頼している。新八も九兵衛も、信じている。だからこそ校内でそんなベタ中のベタな汚らわしい行為に及ばないだろうとは思っている。思っている、が…

こうも時間が掛かるとまさか本当に…なんて嫌な想像が頭を掠めてしまう。




(不純異性交遊反対ィィィ!!)




どうか予想と違っていてくれと祈りながらそっと用具室の扉に手を掛けたその時。




「好き、です」




(───…え、)




用具室の中から聞こえた、九兵衛のか細い声。その言葉を理解した瞬間、頭を鈍器で殴られた、気がした。




「僕はずっと…貴方のことが、好きだったんです」




あまりの衝撃に足を縫い付けられたかのようにその場から動くことが出来なかった。




(好、き…九兵衛が、新八を…?)



心臓はバクバクと嫌な音を立てる。頭が真っ白になって、何も考えることが出来ない。
そして、その時に運悪く気付いてしまった。



こんなにショックを受けたのも。
二人きりになるのを心配したのも。




(俺は、俺は九兵衛のことが)




扉を開けることも出来ずに力無く下ろした腕が、微かに震えた。
嗚呼、馬鹿だ。だから早く帰ってドラマの再放送を見れば良かったのに。そうすればこんなことにはならずに済んだのに───



「せ、先輩…!?」



声のしたほうにハッとして顔を上げれば、そこには顔を真っ赤に染めた少女と驚いた顔の少年。今見たくなかった顔。しまったと思った時にはもう遅い。真っ赤な顔を見た瞬間に何かが壊れてしまった音がした。



「…よォ。お二人さん」

「あ、あの、もしかして今の話…」

「悪い。聞いた」

「そ、そう…ですか…」



頬をより真っ赤に染めて、バツが悪そうに目を泳がせる後輩。それを心配そうに見守る眼鏡の後輩。ああ、そりゃあそうだよな。他人に告白聞かれて平気な奴なんてそう居るモンじゃねェ。きっと今の九兵衛は、穴があったら入りたいという心境なんだろう。しかもこの様子。つまりぱっつぁんはOKした訳だ。


此処は気を遣って「は?何の話?」ってとぼければ良かったのかもしれない。だけどそこまで自分は人間が出来てる訳でもないのだ。コレが多分最後の仕返しだから許せな、新八。九兵衛。



「いや〜二人とも若いねェ。ぱっつぁんの眼鏡のどこが良いのかよくわかんねーけど成功して良かったじゃねェか」

「僕じゃなくて僕の眼鏡かよ!って、アレ?…銀さん、それって何か…」

「ま、お幸せに」



言葉の続きなんて聞きたくない。
新八の言葉に被せるように無理矢理祝いの言葉を重ねると、ニヤリとからかうように笑い、手を上げて踵を返す。上手く笑えたかはわからない。だがそうでもしなければ、泣いてしまいそうだったから。



(…馬鹿な俺)



そのまま鞄を肩に掛けて出口へと向かおうとすると、



「‥先輩!!」



こちらに向かって凛とした声が響く。それはしばらくの間聞きたくは無かった声なのに、聴き入ってしまうぐらいの声で。

思わず振り向けば、耳まで紅く染めた少女と目が合った。



「先輩が、好きです…!」



その言葉に、またも鈍器で殴られる衝撃を受けた。待て待て待て、九兵衛は新八のことが…え?新八に告白してたんじゃ…



「ちょ、ちょいタンマ。だってアレでしょ、九ちゃんそこのぱっつぁんが好きなんでしょ?大人をあんまからかうんじゃありません」


大人じゃねェよ、なんて律儀にツッコミの言葉が飛ぶ。さすがはツッコミのぱっつぁんだ。それを取ったら何も残らないから必死なんだな。

そんなツッコミには動じもせずに、凛とした瞳はそのままゆっくりと九兵衛は言葉を紡いだ。



「…僕は初めから先輩のことがす…好きです。からかってなどいません」

「……え、だってさっき新八に…」

「あっ、アレは新八くんに頼んで告白の練習を……!」



…え?
え?え?え?

何ソレ。
じゃあ俺はとんでもない勘違いを……



九兵衛の告白時の言葉を思い出してみる。


(好き、です)
(僕はずっと…貴方のことが、好きだったんです)



……敬語だ…。



最終確認で自分自身を指差し新八に目線を送ると、新八は困ったような顔で頷いた。



(───や ら か し た 。)



急激に恥ずかしくなってその場に体育座りで座り込み、両手で顔を覆った。


(ぐぁぁぁあ完璧やらかしたァァァ!!これじゃ俺の気持ちモロバレじゃねェかバカヤロー!ヤベェ穴があったら入りてェ今すぐ海の藻屑になりてェェェ!!!)



「……あ、あの…大丈夫ですか?」



おずおずと喋りかけて来た九兵衛を力無く見上げる。


「あー…うん…今ちょっと自分の馬鹿さ加減っつーかなんつーか…。あのさ、本当に俺で良いの?九ちゃん俺本当に信じちゃうよ?」

「…あ、は、はい…」



ふわりと目元を和らげて。



「好き、です」



"心臓を鷲掴みにされる"という感覚を、今身を持って体験した。




「‥俺も好き」



どしゃ降り時々キミの声
(空回りな恋の末)


(今思えば変な告白に変な返事の仕方だったけれど)
(今日という日が一生忘れることの出来ない日になるな、なんて思ったり)



宜しく、彼女。


Fin

──────
先輩×後輩な銀九。
駄文スミマセ…っ(泣)

ネタはまあ…ベタ中のベタな勘違いネタですね← 九ちゃんが告白してるシーンが頭に過って出来た文。途中から新八が空気なのは、多分気を利かせて出ていってくれたんだと思われ(爆)

銀さんの葛藤を書くのが楽しかったです(*^▽^*)←←






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