Short Story3

□それも一つの愛情表現
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(+α)
※茶会ネタ
※そんなつもりはないが微微微R指定っぽい






「九兵衛、ちょっとこっち来てみ」


真っ白い綿菓子みたいな髪をふわふわさせて、ソファーで小さく縮こまる少女を呼ぶ。なるたけ優しく声をかけたつもりだったのだが、九兵衛はビクリと肩を揺らした。その様子に、軽く銀時は苦笑した。



「んなに恐がんないのー。銀さん傷付くから」

「‥済まない」

「いや別に怒ってる訳じゃ…まあいいや」


そのクソ真面目なとこが九兵衛の良いところだしィ?そうサラリと恥ずかしいことを言ってのけ両腕を広げる。此処に来い、という意味だろう。腕の中に入るというのはなかなかに恥ずかしく抵抗があるもので、九兵衛は更に顔を赤くした。



「九ちゃんはーやーくー」

「わ、わかった」


テーブルを挟んだ反対側。
そのからかうような声色に意を決して、ソファーで腕を広げる銀色にゆっくりと近付く。


「──っ、」


途端、銀時の手が小さな手に触れた。‥いや、捕まれたと言ったほうが正しい。突然のことに驚きが隠せず目を見開くと、銀時はそっと目を細めた。まるで壊れ物を扱うように、優しく九兵衛の手を握る。



「手、もう握るのへーき?」

「…あ、ああ」


ふーん?…と意味ありげに笑う。
観察するようにまじまじと手を見つめる銀時に、ひどく羞恥心を覚えた。なんでもないことなのに心臓がうるさい。聞こえる心音は大きく、まるで全身が心臓になったかのように感じる。

…恐らく彼は試しているのだ。
唯一触られても平気な自分に触れられることが、どれだけ許されるのか。



「じゃあ、ここは?」

「…へ、平気だ」



頭を撫でられる。…発作は起きない。そのかわり心臓が物凄い勢いで跳ねた。それが伝わったのか、銀時は悪戯を思い付いたような顔で小さな少女を見つめる。



「…ここは?」



ゆっくりと指先が頬を滑る。耳元で低く囁かれ、心臓が壊れてしまうと本気で思った。

思わずビクリと肩を震わせれば、「どうしたの九ちゃん?」なんてわざとらしい言葉が降ってくる。嗚呼、今日の彼は意地が悪い。だけどそんな彼を好いてしまう自分も重症だ、なんて激しい動悸に頭がクラクラしながらも思う。…発作は、起きない。



「…っ、」

「ちょ、その反応反則だろ」



いつの間にか抱き締められ、耳に息がかけられた。くすぐったくて身をよじると、今よりも強く抱き締められる。まったく、「わり、やり過ぎた」なんて小さな声で言われたら怒ることなんて出来ないじゃないか。



「…し…心臓が止まるかと思った」

「あら九ちゃんったらそんなに俺のこと好きなんだキャー恥ずかしー」

「………」

「いやいやいやウソです!からかってごめんなさい調子こいてごめんなさい許して九兵衛様!!」


いやらしい笑みを浮かべたので無表情で見つめてやる。‥ああ、全くこの男は。
顔を真っ青にして必死に謝る銀時に、口元からは笑みが零れた。



「──しっかしまあ、かなり進歩したよな。まさか抱き締めても投げられねェとは思わなかったぜ銀さんは」



(……あ、)
(そういえば)



頑張った頑張ったと嬉しそうに頭を撫でられて、なんだか複雑になる。今日抱き締められることが平気になったのは自分にとってはとても大きな進歩だが、抱き締めるまで確実に他の「女の子」よりは時間が掛かったのだ。何度投げられてもお前のペースで良いよと、歩幅を合わせてくれる彼に申し訳なくなる。



「…済まない。僕が弱いばかりに、銀時にはいつも我慢をさせているな」

「ばっか、何言ってんだ今さら。んなの気にしてねェって前にも言ったろ」

「だが、」

「銀さんがいいって言ってんだからいーんだよ。今はこんだけ触れられりゃ充分だ。俺ァ別に焦ってねェから」


"心配すんな"
ふわりと柔らかく笑みを浮かべて言う。ああ、僕は幸せ者だな。トクトクと徐々に落ち着いてきた鼓動に、胸にじんわりと広がる温かい何かに。幸せを噛み締めた。



「‥もう少し、待っていてくれ」

「ん」

「今すぐは無理だが、だが必ず…」

「……わーってるよ」



ポス、と頭に手を置かれる。
ああ、優しいな。改めてこの大きな手が大好きなことに気付いた。


「いつか、きっと」

「ああ。待ってるから、どうしても嫌なら無理しねェで遠慮せずに投げろ」



真面目な顔しておかしなことを言う。……いや、投げられることが当たり前過ぎてもう麻痺してきているのかもしれない。

だけど一つだけ、奴が誤解していることがあった。それを今、正さなければ。


(それだけは、違うから)



緊張で震える喉を落ち着かせる。
ゆっくりと深呼吸をして、喉から声を絞りだした。



「……いや、じゃないから」

「…?」

「銀時に触れられることはいやではない、から…」

「───、」

「優しい手が好きだから、嬉しく思うから、銀時だから触れて欲しい」

「…きゅ…」



我ながら恥ずかしい言葉を言っているということはわかった。だがそれでも知って欲しかったのだ。涙が滲んだ瞳で、銀時を見上げる。



「…銀時、僕は」

「若ァァァァァ!!」



突然扉が物凄い音をたてて開いたと思えば、直ぐに降ってきた五月蝿い声。声の主は九兵衛の従者、東城である。おかげで九兵衛が言い掛けた言葉は引っ込んでしまい、銀時は不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。



「テメェ何勝手に人ん家に侵入してんのドア壊してんの。つかいつから居たんですかこの変態糸目」

「変態はそちらでしょうこのケダモノ!!私の目が黒いうちは若を傷物にさせる訳にはいきません!!」

「黒いっていうかお前…アレ?ソレ目についてんの糸じゃね?ちゃんと開いてるのソレ?オイ、開いてるの?」

「ちなみにいつから居たのかは教えられませんね。強いて言うなら『九兵衛、ちょっとこっち来てみ』からでしょうか」

「最初っからじゃねェか!!え、何。じゃあお前盗み聞きしてた訳!?ギリギリまで助けに来ないで恥ずかしがる九兵衛可愛いなとか思ってハァハァ言いながら影から聞いてた訳!?」

「敢えて否定はしません」

「否定しろよ!!」


ギャーギャー取っ組み合いを始めた二人に、九兵衛はため息をついた。その様子をいち早く察知したのか、東城は途中で言い合いをほっぽりだし物凄いスピードで九兵衛に駆け寄る。


「ああ若、ご無事で…!男はみんなケダモノですからアレほどこの男には近付くなって言ったのにもう!…まあそんな若も可愛いですがとにかく早く帰りましょう」

「無視!?」

「……何をしに来た東城。きちんと出掛ける前に報告しただろう。…というか今"男はみんなケダモノ"と言ったぞ。ならばお前も入ってるだろう」

「知った上でこちらのボロ屋に来たのです。…というか何をおっしゃいます若。私はケダモノではありませんよ」



(ボロ屋言うなァァァァァ!!)



嗚呼、殴りたい。
今すぐこの糸目を殴りたい。銀時は青筋を浮かべながら糸目従者を睨み付けた。‥だが奴は今若に夢中で効果はないようだが。



「ではお前は男ではないのか?」


(アレ?九ちゃんボロ屋にはツッコミ入れてくんないの?)

それでも平然と話を進める九兵衛になんだか泣きたくなった。



「いえ、そういう事ではありません。つまり私は"ケダモノ"ではなく若を護る"マモモノ"です」

「意味わかんねーよ!!つか"モ"多いんだよ"ボロ屋"訂正しろよ!!!」



勢いよく糸目野郎の頭を叩く。
それでも東城の口は減らず、銀時は頭を抱えた。

そんな銀時を見て苦笑すると、九兵衛は東城に目をやる。



「というか女の子が"触れて欲しい"なんて言葉を簡単に言うモンじゃありません!!私が来なかったら一体どうなっていたことか考えるだけで悪寒が、」

「…わかった。そろそろ帰るから黙れ」

「おお、やっと分かってくださいましたな若!なんて優しいお言葉…!それでこそ若!!」


(え?今の優しいの?)



銀時が思わず頭の中で入れてしまったツッコミはこの際仕方ないだろう。東城を引きずりながら玄関へ向かう九兵衛は、目が合うとペコリと頭を下げた。多分それは「迷惑をかけて済まない」の意。全くどこまでも真面目だな、なんて思いながら、いいってことよと手を振り送り出した。


九兵衛(と糸目)を見送ったあとに静かになった居間のソファーに座る。まだ少し彼女の体温が残っているような気がして、なんとも言えない気分になった。



(あーあ、こりゃ重症だな)



今日は少しやり過ぎたなと反省しつつもニヤけてしまうのは、Sな性分故か。それとも───




(可愛くてしゃーねェのは俺も同じ)



─────
ムチャクチャ/(^O^)\
東城暴れ過ぎた…つか何げに初書き東城←

なんか無駄に長くなったし、ギャグなんだかほのぼのなんだか色気があるのかわからん話になった。

以上、茶会で出たSな銀さんと九ちゃんでした!







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