Short Story3

□応援するよ、君の恋。
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(?×神)



給料日前のなけなしの金でパンと苺牛乳を買ったコンビニからの帰り道(いくら金欠でも、苺牛乳は欠かすことは出来ない栄養源だ)。

廊下をブラブラ歩きながら欠伸をする。昼休みだからなのだろう、男子やら女子やらのはしゃいだ声が教室や中庭から聞こえてくる。…まったく、なんでアイツらあんなに元気なの中2のノリですか?つーかあんまり騒ぐなよ頭に響くから。こちとら二日酔いなんだよ…なんて教師らしからぬ心の中の呟きはこの際気にしないことにする。


いかにも怠そうに──足を引きずるようなやる気のない歩き方は何時ものこと。教師がそんな歩き方をしていても注意を受けないのは、ただ単にこの場に校長や教頭が居ないからというだけのことだが。




「銀ちゃ…じゃなかった、先生〜」



後ろから独特のソプラノ。
その声が自分に向けられたのだとぼんやり思って、ゆっくりと声の方向に顔を向ける。




──目線の先には、予想通りの綺麗な桃色。




目が合うと少女は嬉しそうに綻んで、自分のほうに軽い足取りで走って来た。その姿はさながら、主人を見付けた子犬のようだ。




(随分とまあ懐かれちまったモンだな)



彼女を受け持つ担任としては、まあ悪い気はしない。…少なくとも懐かれずにつっけんどんな態度をとられるよりは。



「一緒に食べても良いデスカ?」

「まーた来たのお前。言っとくけどメシはやんねェぞ」

「えー」

「神楽ちゃん神楽ちゃん。あのね、先生は今お給料日前なの。腹も財布もスッカラカンなの」

「実は頭もスッカラカンなの」

「うるせェよ。無理矢理国に送り返してやろーか」

「いやだなぁ、冗談ですヨ」

「え、どっちが?」



最近、自分が受け持つクラスの留学生がよく職員室に遊びに来る。それはいつも昼飯時のことで、初めて来た時は昼食を横取りする為かと身構えた(常日頃から早弁をする生徒なので、とうとう昼に食べる分が足りなくなったかと予想した)が、どうやら違うようだ。普通にほんの些細な他愛もない会話をして、普通に教室に帰って行く。それが日常茶飯事になりつつある。



「先生またあんパンと苺牛乳ですか?糖分だらけですネ」

「アン?糖分なめんなよ?コイツはちゃんとした頭の栄養素なんだからよ」

「マジでか。じゃあ先生はいつその栄養は使うんデスカ」

「え、何。お前それ先生が頭使ってないって言いたいの?」

「きっとそのうち糖尿でぶっ倒れるアルな」

「おーい神楽ちゃーーん?無視?無視なのかオイ」



自分自身の机(お世辞にも綺麗とは言えない)の上に乱雑に重ねられた後で丸付けをするノートやら書類やらを適当に退けて、小さく空いたスペースにがさつに袋を置く。


どっかりと椅子に座ってだらりと背もたれに体重を預ける。後ろで椅子が苦しそうに「キィ」と鳴いたがまあ気にしない。椅子には悪いが、そこは基本面倒くさがりである銀八。日々授業等の所謂『面倒くさいこと』をしている銀八にとっては大切な時間。この「力が抜ける瞬間」がたまらなく好きなのだ。

でもまあコイツも古いからそろそろ買い替えたほうが良いかもしれねェな。かなり年期入ってるし…あとで試しに学校に無駄に金をかけるバカ校長に言ってみるか。だからって頭を下げるのは御免こうむるが。断られたら適当に誤魔化してあの頭からだらしなく垂れ下がっている卑猥物を取り外しても良いかもしれない。学校にバリヤーなんぞを張る金はあるんだ。それに比べればたかが椅子の一つや二つ安いものだろう。

…なんてぼんやりと思いつつガサガサと袋の中をまさぐっていると、いつの間にやら桃色を頭に纏った留学生も傍に椅子を持ってきて座った。毎回持ってくるその椅子はいつもどこから持って来るのか、なんて聞くだけ野暮なことだ。何せその椅子はこんな平凡な教師の机にはとても不釣り合いな代物なのだから。



「…別にどーでも良いケドよォ、一つ言っときますよー神楽サン」

「?」


銀八は面倒臭そうに頭に手を突っ込み、ボリボリと掻きながらダルそうに神楽を見た。



「使うのは構わねェがあんまり汚すなよな。あのバカにバレるとあとでうるせーから」

「ほほう、それは良い心掛けじゃの〜。あとはその人を小馬鹿にした言葉遣いさえ直せば完璧じゃな」

「そうそう人を小馬鹿にした言葉遣いを……って、え?」




タラリ。
汗が一筋流れる。アレーおかしいなコレ今日暑かったっけ?なんてごちゃごちゃ考えつつ振り向いてみる。


目線の先には、自分が先程まで散々悪口を言った『あの人』。不健康そうな肌の色をした、頭に卑猥物を垂れ下げているこの学校の主要人物。



「…あ、係長居たんスか」

「係長じゃなくて校長だっつってんだろいい加減にしろよテメェ」

「すんまっせん、バカ校長」

「謝ってないよね、それ。…全く…最近やけに椅子が汚れてるなと思っておったらやっぱりZ組が関係しておったか」

「パンに付いてる点数やるんでここは一つ勘弁してやって下さい。点数シールマニアな校長」

「要らねェよ!つーかそんなモン集めてないのに貰ったってゴミになるだけだからね!?点数シールマニアでもなんでもないからね!?」


ギャンギャンと騒ぐ校長様。正直耳障りである。しかし校長の椅子を持ってきた本人は何事も無かったかのようにもっさもっさとランチタイム。え、何コレ俺が悪いみたいになってね?銀八は軽くため息をついて(ため息つきたいのはこっちじゃ!とかほざく校長)、校長の額にペタリと校長様々の大好きな───


「だから点数シールマニアじゃねェって言ってんだろーがァァァ!!何校長が好きだからあげたみたいな風にしてんの!?何良いことしたみたいな顔してんの!?」

「うるっさいアルなさっきから。落ち着いて食べられないネ失せるヨロシ」

「「お前のせいだろうが!!」」


せっかく味方してやったというのにコレだ。つい馬鹿と一緒に突っ込みを入れてしまったじゃないか。『あとで校長室に呼ぶからな!後悔しても遅いからな!!』なんて捨て台詞を残して額に点数シールを付けたまま、怒りながら校長は去って行った。おお怖ェーと棒読みで言いながら、優雅にランチを楽しむ留学生の頭を叩く。


「いってぇぇ」

「どういうつもりだコノヤロー。減給になっちまうかもしれねェじゃねェかアン?」

「銀ちゃんなら砂糖と水でやっていけるさ!」

「いけるさじゃねェよ!!何爽やかさ醸し出してうやむやにしようとしてんだ!」

「あっ、二度も叩いた!親父にも叩かれたことないのに!馬鹿になったらどうするネ!!」

「安心しろお前はそれ以上馬鹿になれねェよ。既に馬鹿のメーター振り切れてるから」


全く、穏やかな昼休みが台無しだ。午後からの授業のパワーを使ってしまった気がする。今日はもう自習でいいんじゃないだろうか。


「大体なんでさっきあんなこと言った。此処にはあの宇宙人も生息してることわかってんだろ。初めから教室で食っときゃ良かっただろーが」


煙草に火を付けながら問う。
すると目の前の少女は目を泳がせた。…怪しい。何かあるのか?


「いやアルか?」

「……あ?」

「私が来るの、いやアルか?」


何を唐突に。
質問に質問で返すのは反則なのではなかろうか。そう思いながらも「別にどうとも思ってねェけどよ」と返すと、少女は少しホッと安堵したような顔をした。


「んだ?まさか先生が好きだから来てるとかじゃねェだろうな?先生を独り占めしたいの〜みたいな」


そうからかうように言えば、


「んな訳ないネ!勘違いすんなヨ!!」


と神楽。
じゃあなんで来てんだよ?と続きを促してみる。何となく神楽のハッキリしない態度に引っ掛かるのだ。興味が湧いてくるのも仕方あるまい。


「んなっ…此処に来ちゃいけないアルか!?」

「別にィ?ただちょっと興味あんだよ。…ま、無理にとは言わねェけどよ」

「……」


此処まで言い渋るのも珍しい。
こりゃあ何かあるぞと煙草をもみ消した。何か教室に居たくない理由でもあるのだろうか。


「──先生と食べるの、ごっさ楽しいネ」

「…あ?」

「銀ちゃん先生と話しながら食べるの好きネ。弁当箱の大きさでからかったりしないし」

「そりゃまあ…何回も食ってるし慣れたからな」

「此処だと気を張らなくて済むから楽アル」

「気を張る?お前が?」


ドカッ。
顔面を殴られた。んだチクショーホントのことだろ!!あとで覚えとけよ!


「教室に居るとゆっくり食べられないネ」

「…話が全然見えないんだけど」

それを言うと、少女は些か緊張したように息を吐いた。ゆっくりと深呼吸をし、一言ずつ、途切れるようにこう言った。


「……あのドS、が…」


少女は緊張で少し、肩が震えているようだった。…なるほど。そういうことか。なかなかに青臭いことやっている。つまりはコイツにも春が来たってこと。


ようやく気付いたのか、なんて。

微笑ましく思う。




「沖田が?何かしてんのお前に」

こんな風に聞くのは少し意地が悪いだろうか。


「あ、あのヤロー私の弁当箱の大きさいつも女じゃねェなって言って馬鹿にするネ!中のおかずも盗み食いするし最悪アル!!」

「なるほどね…」


拙いながらも純粋で。
微笑ましくて笑ってしまう。

何がおかしいアルか!なんて顔を真っ赤にして怒るモンだから、もうバレバレなんだけど。ちょっとだけ、背中を押してやろうと思った。


「お前ね、そろそろ素直になんなさいよ」





応援するよ、の恋。
(ま、たまにはな)




─────
銀←神に見せ掛けて沖←神。

最後にどんでん返し!みたいなことを一回やってみたかった!

保護者さんな銀八先生が好き^^





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