Short Story3

□贈り物は○○
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「あれ、ここにあった書類は?」

任務に向かう仲間達の見送りから帰ってきたら、確かにさっきまであった筈の書類の山が跡形もなく消えていた。ここの所徹夜続きだからなあ、なんて思いながら目を擦ってみる。だが、景色は変わらない。おっかしいなあ。キョロキョロ辺りを見渡すと、書類を片手に通り掛かったリーバー班長。……マズい。隠したと思われてしまう。とりあえずは冷静を装わねば。



「…なんつー顔してんですか」

「え、何のことかな」

「まあ何でもないんなら良いんスけど…あ、室長」

「!!」


思わず身構えると、リーバーは苦笑いを浮かべた。


「今日はもう休んで大丈夫ですよ」

「へっ?」

「だから、今日はもう上がっちゃって下さい。あとは俺がなんとかしとくんで」


寝るなりリナリーに会いに行くなりして下さいと言い残し、欠伸を噛み殺しながらリーバーは去っていった。


(……アレ?それだけ?)


どうしたんだろうか、今日に限って休んで良いだなんて。確かに最近は今まで以上に忙しく、睡眠も殆どとれてはいなかった。だがそれは同じく重労働を強いられている科学班の仲間達も同じな訳である。それに彼──リーバーウェンハムという男は仕事に(室長に、ともいう)厳しく、こちらが少しでもサボろうとすれば、上司と部下という上下関係なんて関係なく怒声をあげるというのに。



「──…、心配かけちゃってたのかな」



少し根を詰め過ぎて無理をしていたのには、気が付かない訳ではなかった。だが教団がレベル4に襲われ、仲間であるアレンは中央庁からのマークがついた。戦いは更に厳しいものになりつつある。


色々なことが次々と起こって。
時間が足りない、と感じた。
気持ちばかりが焦る日々。自然と睡眠を取ることも少なくなり、笑うことも出来なくなっていて。



…いけない。
暗い思考に飲み込まれては。

一度頭の中をリセットする為に洗面所に行き勢い良く水を出し、顔を洗う。案の定、とても不安定な感情が張り付いている自分と目が合った。



「…しっかりしろ、室長」



焦ってばかりいても何も始まらない。そんな大切で当たり前なことを忘れかけていた。止まらない流れの中、一度深呼吸をするチャンスをくれた仲間に感謝して鏡に向かって笑ってみる。



(大丈夫、いつもの僕だ)



休んでも良いのだということを理解して力が抜けたのか、急にドッと身体が重たくなった。タオルで顔を拭ってから、仮眠を取るために部屋に戻る。

リナリーに会いにいこうとも思ったが、こんな眠気でふらついた状態ではすぐ彼女に追い返されてしまうだろう。怒ったような表情を浮かべて『話はあとでちゃんと聞くから寝なさい!』なんて背中を押す妹を想像して軽く苦笑する。兄は自分なのに、心配をかけてばっかりだ。

そのまま倒れこむようにソファーに身体を預けると、睡魔に逆らうことなく直ぐに意識を手放した。


* * * * *


ずいぶんと久しぶりに、暖かな夢を見た気がした。



(───さん…)
(──…いさん…)



温かくて、優しい声。
それは世界で一番と言っても大袈裟ではないくらいに大切な──



(──コムイ兄さん、)


大切なたった一人の。




…ふわり。
柔らかな布がそっと掛けられたことで、夢の中に沈んでいた意識がフッと浮上した。



「…リナ、リ…?」

「ごめんなさい、起こしちゃった?」



そっと目を開ければ其処には大好きな妹。風邪を引いちゃうから、なんて困ったような顔をして笑うから、釣られてこちらまで口元が緩んだ。



「ねえ、兄さん」

「なんだい?」

「楽しい夢を見たの?」

「…ん…どうして?」



クスクス。
擽ったそうに笑って。



「だって兄さんたら、凄く幸せそうな顔をして寝てたもの」

「えっ、本当?」

「ええ。凄く幸せそうだったわ」


楽しそうに微笑むリナリー。
こんなささやかな時間が、ずっと続けば良いなんて考えてみたりして。

休んだら、少し楽になってきた気がする。



「…あ、そうだ。兄さん、少しなら起きてて平気?」

「うん?」

「多分、もうそろそろ準備が終わってみんなが呼びに来るから…あ、もちろん無理起きてなくても大丈夫よ。みんなには話しておくわ」

「…呼びに来る?」



それを言い終わるのとほぼ同時に、辺りに響き渡るクラッカーの音。驚いて周りを見渡せば、其処にはたくさんの仲間達の姿が。

たくさんのプレゼントと、たくさんの笑顔を浮かべて。


「君達…」


突然のことに驚きを隠せないでいると、リナリーが苦笑しながらも仲間達のほうを見た。


「…もう、良いって言うまで待っててって言ったのに」

「悪いリナリー。待ちきれなくて…つい」

「まあまあ。何はともあれコムイが起きてんだし、良いじゃねェか」

「ええ。それに少し元気になったみたいですし」

「もう、しょうがないんだから」


注意するかのような言葉とは裏腹に、とても楽しそうな声色。そっとこちらに向き直ると、皆と目配せをしてから次の言葉を紡いだ。



「「誕生日おめでとうございます、室長!!」」



忘れていた。
自分の誕生日だなんて。
みんなの言葉と、クラッカーのシャワーに胸が詰まってしまった。


「──…、」



目頭が熱くなった。
だけどそれはグッと堪える。
そう、こんな幸せで暖かな祝福には笑顔で。



「──ありがとう」




Fin.


────
かなり遅くなりましたがコム誕記念文アプしました。

シリアスだかほのぼのだかわからない…(苦笑)でもコムイさんへの愛はたっぷりと込めました←

きっとこのあとは皆でどんちゃん騒ぎするんです^^*

教団の皆で幸せなバースデーを…!

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