Short Story3
□追いかけて、追い抜いて
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「そんなとこで何してんだテメーは」
夕暮れ時。
屋根の上に佇む小さな人影を見つけた。
先程書類が大方片付いたところで、空いた小腹を満たす為にどこかで軽く何か食べようと思っていた。空は茜色で、白を基調としている瀞霊廷も同じそれに染まって、誰もが息を飲む程素晴らしいなんとも言えぬ景色を生み出しているというのに。
(なんだってコイツは…)
ふわり。
返事も待たずにそのまま地面を蹴り、屋根に着地。その小さな背中をじっと見つめる。
やはり、とため息を漏らした。目線は橙色に向いているハズなのに、彼女の瞳にはこれっぽっちもあの夕日が映ってはいないのだ。
「オイ、ルキア」
微動だにしない背中。いつかと同じ憂いを帯びたその横顔に、チッと舌打ちをしてから隣に腰掛けた。
「何ボーッとしてんだテメェ」
「…恋次…!いつから居た!?」
「ついさっきだ。…で、何やってんだよ?一丁前に黄昏れてんのか?」
「…別に黄昏れてなどおらぬ」
(…朽木隊長絡み、か…)
朽木家にルキアが拾われてからかなりの月日が経った。それでも尚、埋まることのない溝。とても苦しい時期を過ごしたことを、知っている。
(───…、)
今でも時々思う。
"あの時"、離してしまって良かったのだろうかと。
「…ルキア、」
あの時の俺は無力で。
其処から連れ戻すことも出来ず、ただ幸せを願うことしか出来なくて。
(俺の思う"幸せ"がコイツの"幸せ"とはいえないのに)
例えいくら悔いたとしても過去を変えることは出来ない。
─それでも。
否、だからこそ。
いつの日かあの人を越えて、いつか見た心からの笑顔を。
「んなボーッとしてるヒマがあったら付き合え!」
「痛ァッ!!な、何をするのだこの馬鹿力め!」
「腹減って苛々してんだよ俺ァ。いーから付き合え」
「全く…相も変わらず身勝手な奴だ」
白玉を奢るのであれば付き合ってやらなくもないぞ。難しい顔をしつつも、いくらか元気を取り戻したルキアににやりと笑ってやる。
「んじゃ、決まりだな」
追い掛けて、追い抜いて
(いつかきっと隣に)